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2008年11月21日(金) 17時24分

裁判員制度、法施行まであと半年 名簿記載通知発送へ産経新聞

 国民が刑事裁判に参加し、裁判官と一緒に審理、判決を決める裁判員制度は、来年5月21日の法施行まであと半年に迫った。既に来年の裁判員候補者名簿が作成され、今月28日には全国30万〜40万人に名簿記載通知が発送される。対象は殺人や強盗致死傷、放火などの重大事件。判決は被告だけでなく、被害者・遺族の人生をも左右する。中身が固まりつつある新制度の概要、そして裁判員に求められる心得とは−。

【写真で見る】 裁判員制度の広報に、あのトリンプも一役

 ■心のケア

 裁判員裁判の対象となるのは凶悪な事件が多く、事件関係者から危害を加えられるのではないかと危ぶむ声がある。裁判員席と被告席はわずか数メートルしか離れておらず、「正常心で座っていられるだろうか」との不安を抱く人もいる。

 裁判員の名前や住所などは公にはされず、他の裁判員が何を述べたかなど評議の過程で起こったことは「評議の秘密」として保障される。裁判員やその家族を脅したりした場合は刑罰の対象となる。傍聴人が法廷に刃物を持ち込まないようすべての裁判所に金属探知機が設置される。

 ただ、「顔を覚えられたら…」などの不安は尽きない。また審理で悲惨な現場の様子を見聞きすることもある。制度開始後は、裁判員のための24時間態勢の無料電話相談窓口や心理カウンセラーの面談を受けられる「心のケア・プログラム」が設けられる予定だ。

 ■報道のあり方

 刑事裁判の判決は、法廷で示された証拠だけをもとに、言い渡されなければならない。しかし事件報道の段階で、有罪判決が確定していない容疑者を犯人と断定されると、裁判員に予断を与えるとの指摘がある。

 一方、報道には犯罪の背景を掘り下げ、再発防止策を探るなどの役割もある。既に日本新聞協会は「捜査段階の供述はすべて真実であるとの印象を読者・視聴者に与えないように配慮する」「識者のコメントや分析は容疑者が犯人であるとの印象を与えないよう留意する」−などの指針を定めた。多くの新聞は、取材源を明確にして、読者が真偽を判断できるように表記を変えつつある。

 日本民間放送連盟も、容疑者や被告の主張に耳を傾け、一方的に社会的制裁を加えるような報道は避ける−と確認。事件報道と適正な刑事手続きの保障との調和を図るとしている。

 ■被害者参加制度

 これまで被害感情を証言する「証人」としての立場にとどまっていた犯罪被害者が刑事裁判に直接参加できるよう刑事訴訟法と犯罪被害者保護法が改正され、12月に施行される。被害者は検察官の隣に座り、被告や証人に質問したり、検察官の論告求刑の後で求刑を含む意見を述べたりすることができるようになる。

 制度が適用されるのは、故意に人を死傷させた罪や強姦罪、逮捕・監禁罪など、生命、身体、自由に関係する犯罪にあった被害者と遺族だ。弁護士の間では、被害者の「怒り」の感情が審理に持ち込まれることによって、冤罪(えんざい)が増え、さらなる重罰化も進む−と危惧(きぐ)する声は根強い。

 ただ、被害者参加は時代の流れを踏まえたものだ。裁判員が生の被害者感情に接しても、証拠に基づく冷静な事実認定や適正な量刑判断をできるかどうかが問われる。

 ■取り調べ時の録音・録画

 被告が逮捕後に罪を認め、その後否認に転じた場合には、罪を認めた段階で作成された自白調書に取調官の誘導や脅迫などがなかったかが問題となる。これまでの裁判では、取調官の証人尋問や被告人質問に何日間も費やし、自白の任意性を検証していた。

 裁判員制度では集中審理になるため従来の手法はとれない。このため自白の任意性を迅速、的確に立証する手段として、取り調べ状況の録音・録画が有力な選択肢として浮上した。検察庁は平成18年から自白の動機や経過、取り調べ状況などを容疑者に質問し、応答する部分の録画を試行。現在の裁判でも証拠として採用され始めている。

 日本弁護士連合会は全過程の録音・録画(可視化)を主張。だが検察庁は、容疑者と取調官の信頼関係が構築できず、真相解明が難しくなる−として難色を示し、実現していない。

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