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2008年11月21日(金) 00時00分

<上>「離島」難しい辞退の線引き読売新聞

仕掛け作りに追われる柴田さん。「島からの参加は難しい」と言う(小値賀町で)

 五島列島北部の小値賀町。人口約3000人の島は美しい海に囲まれている。

 「漁師の中で制度に参加する者はおらんでしょう」。柴田秋良さん(60)は険しい表情を見せた。18歳で漁師になり、波が3メートル以下の日は毎日、午前4時から漁に出る。しけの日は餌の仕込みや船の修復。魚を追って4か月間、船で寝泊まりすることもある。

 裁判員に選ばれると、公判が開かれる前日には長崎地裁がある長崎市に入らなくてはならない。多くの裁判員裁判が3日間の連続開廷となるため、最低でも4連泊を余儀なくされる。

 「天気のいい日に漁に出ないことほどつらいことはない。参加しても漁が気になって身が入らんでしょう」。柴田さんは首を振る。

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 「全員参加」が原則の裁判員制度だが、「親族・同居人の介護・養育」「自分で処理をしないと、事業上著しい損害が生じる恐れがある」など裁判所から「やむを得ない理由」が認められれば辞退できる。

 代わりに働ける人がいるかや精神的な苦痛の程度などが基準となるが、長崎地裁の井上弘通所長は「離島」も判断材料の一つになると言う。

 例えば小さな子を抱える主婦。都市部では一時保育サービスを利用して保育園に預け、公判終了後に引き取ることができるが、離島の主婦の場合、ホテルに連泊しなければならない。

 県内の有人離島は73と日本一。県民の1割を超える約20万人が暮らしている。「仕事や経済面で全く同じ事情で都市部では辞退が認められなくても、離島では辞退を認めざるを得ないケースも出てくる」と井上所長は言う。ただ、「安易に辞退を認めると、『国民の幅広い意見を反映する』という制度の趣旨からそれてしまう。線引きは難しい」とも打ち明ける。

 「裁判を身近に感じてもらい、司法に対する国民の信頼向上につなげる」という裁判員制度。多くの理解、協力を得るには公平性、平等性の確保が大前提だ。「結局は、『長崎市周辺の人ばかりが裁判員をしている』とならなければいいが……」。井上所長は不安をのぞかせる。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/nagasaki/feature/nagasaki1227274562196_02/news/20081121-OYT8T00772.htm