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2008年11月20日(木) 00時00分

進化するユーザーインターフェース読売新聞


携帯用OS「アンドロイド」向けに米シェイプライターが開発した新UI。 ソフトウエアキーボードとペン入力を組み合わせ、正確で迅速な文字入力を目指す

 情報機器の主流がパソコンから携帯端末に移行するのに伴い、そのユーザーインターフェース(UI)もパソコン画面に限定された従来のグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)から、タッチパネル、音声入力、そして各種センサーなど、多様な手段を組み合わせた「マルチモーダル」へと進化しつつある。

 UIとは、コンピューターなど情報機器とその利用者の間で、各種情報をやり取りするための方法を指す。古くは穿孔テープなどが使われ、1960〜80年代にかけてはキーボードからコマンド(命令)を打ち込むキャラクター方式へと変化。90年代以降は、デスクトップ環境を中心とする、GUIが普及した。

 GUIの端緒は、米シンクタンク「SRI」の研究者ダグラス・エンゲルバート氏が63年頃に考案したコンピューターマウスだ。いわゆるポインティングデバイス(対象物を指し示す装置)としてのマウスによって、実世界における文書やファイル、プリンター等々を、画面上でアイコン化して視覚的に操作できるようになった。これがデスクトップ環境などと呼ばれるものだ。

 こうしたGUIは米パロアルト研究所を中心に開発され、70年代終盤から90年代にかけて、まずアップルの「リサ」や「マッキントッシュ」、続いてマイクロソフトの「ウィンドウズ」などに実装され、広く社会に普及、現在に至っている。

状況に応じて千変万化

 そして今、UIが再び大きな転換点に差しかかっている。その理由はIT産業の中心が、据え置き型のパソコンから、肌身離さず持ち歩ける携帯端末へとシフトしているからだ。これは、若者の携帯電話依存という社会現象、あるいはパソコンの台数が世界で約11億台なのに対し、携帯端末のそれは33億台と3倍に達するとともに、今後、パソコンを上回る成長が期待される、という統計値などから明らかである。

 元々、通話目的から生まれた携帯電話は今や、パソコン並みの情報処理機能を備えた高度な携帯端末へと進化しつつある。これを端的に示すのが、昨年から今年にかけて世界的ブームを巻き起こしたアップルのiPhoneだ。同機は人間が指で情報やコンテンツに触れるという直接操作、つまりタッチパネル方式を採用した点で、マウスとデスクトップ環境による間接操作方式のGUIとは大きく異なる。アイフォーンは加速度センサーによってユーザーの動作を検知する機能も備えているが、これは今どき、普通の携帯電話でも珍しくない。

 しかし、タッチパネルや加速度センサーの導入は、今後本格化するUI革命の先駆けに過ぎない。なぜなら、静的で安全な室内を想定して開発された従来のGUIは、動的で危険な屋外で使われることの多い携帯端末にそぐわないからだ。

時代は「マルチモーダル」へ

 米IT産業の中心地、シリコンバレーでは、既にUI革命に向けた取り組みが始まっている。そこでは携帯向けの音声入力ソフトを開発するプロンプトゥ社のような現実的な企業から、脳波でビデオゲームを操作する技術を商品化したニューロスカイのように、半ばSF的なアプローチをとる企業まで、数多くの挑戦者がひしめいている。

 彼らを貫く軸が「マルチモーダル」というキーワードなのだ。これはユーザーの置かれた環境の変化に応じて、複数のUIを切り替えることを指す。例えば自動車を運転中には音声入力、ふと立ち寄ったカフェでメールを打つときにはキーボード、会議の最中に素早くウェブを閲覧するときにはタッチパネルなど、状況に応じて最適なUIは異なる。こうした変化を各種センサーで検知し、異なる方式を自動的に切り替えて提供する技術こそが、次世代UIの要になると見られているのだ。(KDDI総研・リサーチフェロー小林雅一/2008年10月24日発売「YOMIURI PC」2008年12月号から)

http://www.yomiuri.co.jp/net/frompc/20081120nt0b.htm