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2008年11月20日(木) 00時00分

〈下〉人生決める重い任務読売新聞

「懲役10年」「7年」「決められない…」
裁判員は法廷で裁判官と一緒に被告人と向き合う(盛岡地裁で)

 「有罪という点では、全員一致でいいですね」。盛岡地裁5階の評議室。佐々木直人裁判長の言葉に、楕円(だえん)形のテーブルを囲んで座った6人の裁判員がうなずいた。

 佐々木裁判長は6人の顔を見回すと、「次は、量刑をどれくらいにするかということになります」と言葉を継いだ。

 法律のプロである裁判官と、素人の裁判員が一つのテーブルで議論を重ねる評議。そこでは、被告人の有罪、無罪、量刑が決まる。

 今回の模擬裁判は、飲酒運転で死亡事故を起こしたとして、危険運転致死罪に問われた被告のケース。被告は起訴事実を認めており、あとはどのくらいの刑罰にするかが争点になった。

 検察側は懲役8年を求刑し、弁護側は懲役3年を主張していた。

 公判は2日目の午前で結審。評議はその日の午後から始まった。

 評議では、量刑を決める前段として、厳罰を望む遺族の気持ちをどう判断するか、被告は本当に反省しているのか、などの点について議論を重ねた。

 予定の3時間を30分ほどオーバーしたところで、この日は量刑までは踏み込まず、ひとまず終了した。

 裁判所側も、裁判員の緊張を和らげようと、工夫を凝らした。初公判前には、法廷内を案内し、検察官や弁護士がどこに座るかなどを説明。評議の前には、裁判官と裁判員が雑談を交わしながら昼食をとった。法廷でも、裁判員の理解を助けようと、たびたび休廷し、証拠調べや証人尋問のポイントを説明した。

 そして、最終日の3日目午前、評議のテーマは量刑に移った。

 「殺人に近い行為なので10年」「危ないとわかっていて運転したのは許せない。7年が相当」「6年が妥当か、7年がいいのか、決められない」——。

 6人の意見は懲役5〜8年に分かれた。6人は時折、裁判官に質問しながら、さらに議論を続けた。「意見が分かれるのは当然。評議を尽くして結論を出すことが重要。そうすれば、自分の意見と異なる結論が出ても納得できる」。佐々木裁判長は強調する。

 3日目午後、法廷が再開された。

 「被告人を懲役7年に処する」

 佐々木裁判長が判決を言い渡した瞬間、6人の裁判員は、じっと被告を見つめていた。

 「人の人生を決めてしまうと考えると、すごく重い任務」。参加者の1人は、3日間の経験をそう振り返った。

 だれもが法廷に立ち、人を裁く立場になる可能性がある裁判員制度。県内では、624人に1人の確率で、裁判員の候補者に選ばれる。

■評議

 結論は全員一致となることを目指すが、意見がまとまらない場合は多数決で決める。非公開で行われ、裁判員は評議の雰囲気や感想は話してもよいが、結論に至った経緯などを他人に漏らすことは法律で禁じられている。

(この連載は、帯津智昭が担当しました)

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/iwate/feature/morioka1227018339258_02/news/20081120-OYT8T00807.htm