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2008年11月19日(水) 23時12分

「明日は我が身…」中央省庁の官僚や裁判官に衝撃広がる読売新聞

 旧厚生省の元事務次官宅が相次いで襲われた事件で、中央省庁の官僚や裁判官は強い衝撃を受けている。

 道路特定財源の無駄遣いが問題となった今春、国土交通省のある幹部は、インターネット上に「道路関係団体と癒着している」などと名指しで書き込まれた。見知らぬ相手からの批判に不安を感じたが、「今回の事件の衝撃は、はるかに超えている。命まで覚悟しなければならないのか」とため息をついた。

 成田空港の拡張を巡り、過激派に、自宅に爆弾を仕掛けられた経験を持つ旧運輸省OBは「当時も、家族や近所の人まで巻き込もうとしたことに血の気が引いたが、今回の事件の印象は、当時と微妙に異なる」と言う。「自分は役所全体を脅すために狙われたが、今回は特定の個人に矛先が向けられた気がする」と話す。

 関東地方の地裁で民事裁判を担当する男性裁判官は約10年前、担当していた訴訟の関係者と見られる人物から「自分たちの意に反する判決を出せば、家族全員殺す」という手紙を送りつけられたことがある。結局、何も危害はなかったが、沈うつな気分に襲われた。今回の事件についても「もし、年金問題が犯行動機なら、誠実に仕事をした人の命を狙う事は絶対に許せない」と話した。

 刑事裁判の経験が長い最高裁幹部は、オウム真理教の信者が長野地裁松本支部の裁判官官舎を狙った松本サリン事件の衝撃を思い起こした。「被告から脅迫の言葉を投げつけられることはあっても、相手が見えないことは、あまりない。今回のような犯罪は時間とともに社会不安が増す。一刻も早く解決されなければ」と言う。

 殺害された山口剛彦・元次官が旧厚生省の年金課長だった際、直属の部下だった前宮城県知事の浅野史郎・慶応大教授は「吉原さんも山口さんも次官を辞めてかなりたつ。なぜOBが狙われたのか、なぜ家族が巻き込まれたのか、不可解なことが多すぎる」と指摘する。その上で「霞が関全体に『明日は我が身』というおびえや不安が広がった。中央官庁の仕事に携わる人たちを萎縮(いしゅく)させ、その意味では国家的な危機だ」と事件の影響を深刻に受け止めた。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20081118-5344510/news/20081119-OYT1T00842.htm