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2008年11月19日(水) 06時03分

年金テロか…元厚生次官狙う連続殺傷スポーツ報知

 歴代の旧厚生事務次官宅で、本人や家族が相次いで刺された。18日午前には、元厚生事務次官の山口剛彦さん(66)と妻・美知子さん(61)が、さいたま市南区の自宅玄関で胸を数か所刺され、亡くなっているのが見つかった。その約8時間後の午後6時30分ごろには、東京都中野区で、元厚生事務次官の吉原健二さん(76)の妻・靖子さん(72)が宅配便を装った男に自宅の玄関前で刺され、胸に重傷を負った。ともに現在の基礎年金制度を作った「年金のプロ」。両氏の経歴や犯行の手口に共通点があることから、警察庁は旧厚生省幹部を狙った連続テロの可能性があるとみて、捜査を進めている。

 元官僚トップを狙った同一犯による連続テロなのか。歴代の旧厚生事務次官宅で、本人や家族が相次いで刺された。

 最初の事件は、18日午前10時15分ごろ、さいたま市南区別所にある元厚生事務次官の山口さん宅で、山口さんが室内側、美知子さんが外側に、あおむけで血を流して倒れていたのが見つかった。

 2人の胸には、それぞれ数か所の刺し傷があり、服の上から鋭利な刃物で刺されたとみられる。室内に目立った物色の跡はなく、凶器は見つかっていない。埼玉県警は遺体の状況などから、17日深夜に殺害された可能性が高く、殺人事件と断定し、捜査を進めていた。

 そして、最初の殺害事件の発見から約8時間後。今度は、東京都中野区上鷺宮で悲劇が起きた。午後6時30分ごろ、山口さんの6代前に厚生事務次官を務めた吉原さん宅の玄関前で、宅配便を装った男に妻・靖子さんが胸を6か所刺され、重傷を負った。政府筋によると、靖子さんは病院に搬送される際に「主人が狙われるかもしれない。危ない」と語ったという。靖子さんは病院に搬送され、集中治療室で手当てを受けている。

 この一連の殺傷事件には共通点が多い。まず、狙われたのが元厚生事務次官であること。そして、現在の基礎年金制度が創設された85年に、厚生省の年金局長を務めていたのが吉原さんで、山口さんが部下の年金課長を務めていたこと。ともに年金問題に取り組んだ「年金のプロ」だった。

 さらに、犯行の「手口」も酷似していた可能性がある。靖子さんは宅配便を装った男に刺されたが、警察当局によると、山口さん宅にも犯人が同様の手口で侵入した可能性があるという。「元厚生事務次官」「年金のプロ」「犯行の手口」…。このような共通点から、警察庁は同一犯による犯行とみている。

 標的となった厚労省への風当たりは強い。厚生労働行政は医療、年金、労働など分野は多岐にわたる。昨年発覚した約5000万件の該当者不明の「宙に浮いた年金記録」問題では、国民的な批判を浴びた。社保庁も、ずさんな年金記録管理に加え、職員による年金保険料の横領など醜聞も噴出。厚労省は改革に取り組んでいるが、犯人が社会保障制度を巡る一連の不祥事に不満を抱き、犯行に及んだ可能性もある。

 警察庁は、厚労省から、事務次官経験者と社会保険庁長官経験者リストの提供を受け、関係者の警備を強化。厚労省は19日から、同省と社保庁が入る霞が関の合同庁舎入り口2か所への金属探知機設置や、警察官の配置など警備を強化し、麻生太郎首相も警備上の理由から日課にしている自宅周辺での朝の散歩を当面自粛する方針を決めた。

 吉原さんの妻を刺した男は年齢30歳くらいで、身長160センチ、中肉で野球帽をかぶっていたという。警察庁は目撃情報などをもとに、犯人の行方を追っている。

http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20081119-OHT1T00113.htm