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2008年11月19日(水) 08時06分

【Re:社会部】心に刻む「美徳」 産経新聞

 東京都渋谷区の教会で今月1日に営まれた1人のアイルランド人女性をしのぶ葬儀ミサに参列しました。アイリーン・加藤さん。享年76。日本人外交官と結婚し、15年間にわたり宮内庁の御用掛を務めた彼女は、文化勲章を受章した日本文学研究者、ドナルド・キーン氏のまな弟子でもあり、皇室の方々が詠まれた和歌の英訳を行ってきた人です。

 彼女との出会いは今年6月に開かれた同じアイルランド人の日本文学研究者、マクミラン氏が出版した小倉百人一首英訳集の記念パーティーでした。キーン氏が「本来の意義と美を回復してくれた」と絶賛したこの本をまとめるにあたり、アイリーンさんはときには厳しくアドバイスしたそうです。「彼女がいなければ本は完成しなかった」とマクミラン氏。

 ミサでは、天皇、皇后両陛下が贈られた生花が飾られ、皇室や宮内庁、外務省関係者らが多く集いました。能や和歌に造詣が深く、一流の翻訳家でもありましたが、表に出ることをよしとしない方でした。姿もたおやかなこの女性の中に謙譲といった「日本の美徳」を見た方は多かったと思います。

 「一度ゆっくりお話ししましょう」という約束を実現できなかったことが今さらながら悔やまれます。アイルランドと日本の懸け橋となり、日本で息をひきとった女性がいたことを心に刻んでおきたいと思います。(杉)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081119-00000051-san-soci