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2008年11月19日(水) 00時03分

ソマリア海賊“増長” 警戒海域外でのタンカー襲撃に衝撃産経新聞

 【シンガポール=宮野弘之】アフリカ東部のケニア沖で海賊に乗っ取られたサウジアラビアの大型石油タンカー「シリウス・スター」は18日、海賊が拠点とするソマリア中部のハラドヒアの港に入った。フランス通信(AFP)が伝えた。これまで海賊に乗っ取られた船舶の中で最大だったこと以上に、警戒していたソマリア沿岸200カイリ(約370キロ)から大きく離れた海域での犯行に、各国は衝撃を受けている。

 同タンカーは現地時間15日朝、ケニア・モンバサの南東沖450カイリ(約830キロ)の公海上で乗っ取られた。これまで、ソマリアの海賊は小型のスピードボート数隻を使って襲撃していたが、ロイター通信によると、海賊は3隻のトロール船を保有しており、襲撃の“母船”として使うことで、活動海域をさらに広げたもようだ。身代金の獲得が目的とみられる。

 シリウス・スター級のタンカーの場合、通常、海面から甲板までの高さは20メートル弱。だが、今回はサウジアラビアから200万バレルの石油を満載し、喜望峰回りで米国に向かう途中で、海面からの高さは10メートル程度に下がっていたとみられる。このため、海賊がロープやはしごを使って乗り込むことができたという。

 ロイター通信によると、米海軍第5艦隊報道官は事件について「予想していなかった」と述べ、インド洋に展開する各国海軍と新たな対策の検討に入ったことを明らかにした。ただ、マレン米統合参謀本部議長は17日の記者会見で、「海賊の到達距離に呆然(ぼうぜん)とした。いったん乗り込まれると(海賊を)排除することは難しい」と述べ、警備の難しさを指摘した。

 米国の警備会社が武装警備員を乗せることを提案したが、「海賊がさらに重装備して襲ってくる可能性が高く、発砲の権限など問題も多いため、実際に乗せた船はまだない」(海運関係者)という。

 このため、海運業者や船主は各国海軍が警備する海域を使うほか、乗り込まれないよう甲板全体を覆うカバーをつけるなど船自体を改造して対応してきた。さらに、ソマリア沖のアデン湾からスエズ運河という航路を避け、遠回りで喜望峰を回る船も出始めていた。

 シリウス・スター号は30万トン級と巨大なため、スエズ運河を通過する予定はなかっただけに、今回の事件は、警備のすきをついた犯行といえる。

 ソマリア沖では今年、60隻以上が海賊に乗っ取られている。ロシア製戦車などを積んだまま乗っ取られたウクライナの貨物船も含め、なお12隻以上が海賊の手にあるとされる。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081119-00000500-san-int