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2008年11月19日(水) 22時03分

<元次官宅襲撃>各省が警備強化 配達物、メール、探知機…毎日新聞

 元厚生事務次官の連続襲撃事件から一昼夜たった19日、東京・霞が関周辺では厚生労働省だけでなく他の省庁も警備の強化に乗り出した。官僚トップの家族も巻き込んだ凶行に「なぜこうなったのか。背景が気になる」(防衛省職員)。職員らは、憤りを隠せない一方、強い不安もにじませていた。

 成田闘争との関連で、現在も警備の必要な職員が指定されている国土交通省。事件を受け、本省職員約4000人全員に、自宅での警戒を呼び掛ける電子メールを送った。「配達物の受け渡し時に注意する」などの内容で、こうした注意喚起は80年代に成田闘争が激化した時にも実施した。合同庁舎3号館の2カ所の出入り口では、職員以外の入館者に、不審な手荷物の開封検査を実施。建物内外の巡回も増やした。

 職員への警戒呼びかけのメールは、環境省でも送られた。同省は厚労省と同じ建物にあるため、職員以外の来館者は19日朝から、同省同様に金属探知機のチェックを受けるようになった。

 前次官の汚職事件など不祥事が相次ぐ防衛省。新宿区の本省では普段から入り口に金属探知機を設置して来館者をチェックしており、事件による特別な対応はしていないという。制服組の幹部は「松本サリン事件も、当初こそ個人の犯罪と思われたが、最終的にはオウム真理教による組織性の強い犯罪だった。今回の事件でも、そうした背景がないのか気になる」と話した。

 ◇恨みとは思えぬ

 元厚生事務次官の自宅が相次いで襲撃された。識者らは異例の事件をどう見るか。初回は2人の元次官の人柄や仕事ぶりに詳しい元毎日新聞論説副委員長の宮武剛さんに聞いた。

 事件の一報を聞いた時、吉原健二さんと山口剛彦さんのまじめな仕事ぶりを思い出し憤りを感じた。背景に個人的な恨みがあるとはとても思えない。

 2人は現在の年金システムの骨格となる「基礎年金制度」導入を決めた85年の大改正に取り組んだ。吉原さんは改革の半ばで病に倒れた前任者を引き継ぎ、直前に年金局長に就任したばかりだった。

 亡くなった山口さんは、早朝から自室に部下を集めて勉強会を開き、熱心に議論を交わしていた。職員から「今日も朝食抜きか」との声がもれるほどの熱心さだった。大改正時に年金課長として吉原さんを支えた11年後には、贈収賄疑惑で辞職した次官の後任に急きょ選ばれた。2人はともに最後の切り札として登場し、難局を乗り切った。

 2人が取り組んだ大改正が国民年金の財政危機を救い、障害者や主婦が年金を受け取る仕組みも確立された。その後の運用や管理のまずさが現在の年金不信を招いているに過ぎない。事件を「年金テロ」とは思いたくない。仮に背景に年金問題があるとしても、2人を襲撃するのは筋違いだ。(みやたけ・たけし=目白大教授、生涯福祉専攻)

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