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2008年11月18日(火) 00時00分

〈上〉欠かせない職場の理解読売新聞

その時、仕事休めるか?
盛岡地裁で行われた模擬裁判で、裁判員候補者にあいさつする佐々木直人裁判長(中央)

 「当たっちゃった」。盛岡市役所の西條幸希さん(33)のもとに9月下旬、模擬裁判への呼出状が届いた。

 呼び出しがかかったからといってもまだ、実際に裁判員に選ばれるかどうかはわからない。選ばれなければ呼び出しの1日で終わる。選ばれれば指定された3日間通わなければならない。西條さんは悩んだ末、選ばれた時に備え、3日間の仕事を同僚に引き継ぐことにした。模擬裁判は1か月以上も先だったので、引き継ぎも無理なく出来た。

 地裁からの呼び出しに応じることは国民の義務だ。ただ、呼出状に同封された質問票に回答を記入して返送することで、辞退を申し出ることができる。地裁が認めれば、裁判所まで行く必要はない。

 最高裁は、辞退が考慮されるケースとして、接待でゴルフに行く営業マンや卒業式に出席する教員などの具体例を挙げている。育児や介護も、自分以外に代わりがいないなどの理由を示せば辞退できる。

 盛岡地裁は現在、盛岡まで2時間以上かかる地域の住民を中心にアンケートを行っており、農漁業従事者の多い県内特有の事情について調査中だ。

 裁判員として地裁に出向くには、仕事を休む必要が出てくる。

 普代村は8月、有給休暇についての村職員の規則を改正し、裁判員に選ばれても有休を取得できるようにした。今月に入り、県も同様に有給休暇の規則を改めた。

 民間企業でも、岩手銀行(盛岡市)が昨年7月、「裁判員休暇」制度を新たに設けた。

 一方、中小企業では裁判員制度への対応が進んでいないのが実情だ。県商工会連合会の桐田武総括主幹は、「自分や従業員が裁判員になるかもしれないと思って悩んでいる経営者は、まだいないようだ」と苦笑いする。今のところ、同制度について相談してきた企業はないが、「地裁に呼び出された場合は、有給休暇や出勤扱いにしてほしいとアドバイスするつもり」(桐田総括主幹)という。

 模擬裁判に参加した人たちの間でも、意見は様々だ。盛岡市川目、銀行員佐々木数雄さん(59)は有給休暇を取って臨んだ。「身内の葬儀などで急に休みをとることもある。裁判員は、事前に予定がわかっているのだから、参加することはそれほど難しくない」と話す。一方、同僚に仕事を引き継いで参加した西條さんは「忙しい時期だったり、自分でないと難しい仕事があったりすると、同僚には頼みづらい。職場の理解が欠かせない」と感想を語った。

■裁判員制度

 20歳以上の有権者から選ばれた裁判員が、裁判官とともに被告人の有罪や無罪、量刑を決める。1年ごとに候補者が選ばれ、前年の12月までに通知が届く。その中から事件ごとに50〜100人が選ばれ、初公判の6週間前までに裁判所から呼出状が届く。最終的にはくじで6人の裁判員が決まる。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/iwate/feature/morioka1227018339258_02/news/20081118-OYT8T00824.htm