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2008年11月18日(火) 17時31分

風景画の自在な線描、静物画の玄妙な色彩──長谷川肇の水彩画展Oh! MyLife

 横浜のギャラリーミロ(Gallery Miro)で、第3回長谷川肇水彩画展が10月中旬開催されるというので出かけた。

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 ギャラリーミロは関内駅から歩いて数分のところにあり、瀟洒な構えである。街路の光が画廊内部まで反射し、壁の絵が一層映えて見えるようである。

 会場正面には、操り人形が暗い夜の光の中で「赤レンガ倉庫」の宙を舞っている幻想的な作品が懸けてあった。題は「想い」とある。人形が訪問者を歓迎する格好になっている。妖艶な色彩世界である。

 風景画としてはスペイン、ヴェネチア、クロアチア、チェコ、オーストリア、シチリア島、ポルトガルなどの街、丘、教会、海岸などの風景が透明感のあるタッチで描かれている。旅行好きの人にとっても、絵を描く人にとっても、どこも一度は訪ねてみたいところばかりである。

 いずれも毎年スケッチ旅行として2000年以降に訪ねたところだという。この海を越えた制作意欲には驚かされるばかりである。

 風景画は、奥行きというか伸びやかな遠近感を秘めた明るい画面である。線描が風景を自在に切り取り、独特の色彩が風景の存在感を明快に画面に定着させているように感じられた。

 線描は実に多彩であり、あくまでも自在である。色彩は洗練されていて深遠である。南ヨーロッパの風景をこのように自由に描き止めるためには、デッサン力と色づくりについてよほどの鍛錬が求められたはずである。またそれ相当のキャリアも必要だったと思われる。私の好きな一枚は「ヴィエステ(イタリア)」である。

 国内の風景画としては、横浜港や開港記念館など横浜市内のものを中心に、都心や湘南など近郊のものが多く展示されている。

 我々にとって馴染みの風景だけにいずれの作品にも大いに親しみを覚えたところである。小樽祝津のニシン屋敷や京都白川の風景などもあり、作者の旅の道づれになったような面白さをじんわりと味わうことができた。横浜の風景を描かせたらこの作家の右に出る人はそれほどいないのではないかと私には思われる。

 次に静物画であるが、しっかりしたデッサンの上に玄妙とでも言いたい色が載せられている。画面の中の光と陰影が魅力的である。モチーフはあくまでも洗練された雰囲気で画面の中に存在しているように感じられた。

 作者は人形を描くことに特に強い思い入れがあるように思われる。どの人形もある種の生気を持っているように感じられるのである。人形が画面から何か語りかけてくるような存在感に魅了される。「人形と目が合った」という感じである。

 風景画の場合もそうであるが、多彩な色の在り様には驚かされるばかりである。この独特の色彩は、この作者の色と言ってもいいかも知れない。それがモチーフを画面に浮かび上がらせ、モチーフに存在感を与える力になっていると思われる。私の好きな一枚は、人形を別にすれば「オーム貝とサクランボ」である。

 ところで、風景画における作者の線描について、私は「多彩で自在」と感じたが、作者によれば、「実はいろいろな筆を使い分けることが大事である」と言う。

 鉛筆を使うのは勿論であるが、それ以外に使い捨て万年筆、ボールペン、それに竹ペンや割り箸ペンなどを使うのだそうである。竹ペンと割り箸ペンは自作のもので、これが実にいいのだそうである。

 竹ペンは分かるとして、割り箸ペンとは何か。それは割り箸を割らずに先端を両側面から中心の割り線を残すように鋭く削ってペンにしたものだそうである。削った先をペンのように使う訳だが、削った側面のところも筆のように使うと面白いと言う。

 作者の長谷川肇氏は、サラリーマン時代から水彩画を描き続け、リタイア後は本格的な水彩画作家として横浜で活動している一人である。

 現在、足掛け18年間も続いている「鎌倉・横浜スケッチ会」のまとめ役もやっているのだそうである。そのうち「鎌倉」スケッチ会の方は、月1回のスケッチ会ながら200回を超える開催と言うから驚きである。

 いずれにしても今後とも目が離せない水彩画作家のひとりである。私は、作者に横浜の街の絵を描き続けてほしいと思いながら会場を後にした。

(記者:雨宮 文治)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081118-00000003-omn-l14