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2008年11月16日(日) 11時59分

作家・川上未映子「全部壊してチャラに」 新たな表現に挑む産経新聞

 大阪弁の文体を操り、心の内面世界へと突き進む、まるで孤高の平野をいくかのような気鋭の女性作家がパミール高原の大自然に立つ…。少し、ミスマッチ。

 「合成みたい? 無理がありましたか? 海外旅行もそんなにしてないし、アウトドア派でもないし…」

 関西テレビ開局50周年記念番組「天のゆりかご〜世界の屋根に暮らす家族の物語〜」(16日放送)で、取材班が1年かけて追った中国の少数民族・タジク族のダウティ一家を訪れた。遊牧を業とし、電気やガスの全くない暮らし。「でも人の暮らしは同じ。『ものすごく違って、ものすごく同じ』。家族という『基本的分母』も変わらない」

【関連フォト】創作の舞台裏や文学観を語る川上未映子さん

 タジク族は客人のもてなしを重んじる。「『われわれ』ばかりで、通訳から『私』という言葉を聞かなかった。日本は良くも悪くも個人主義で、うっかり『私たち』といえないくらい。宗教や民族、集団を重んじるなら、なぜ異文化の客人をもてなすのか。個人を考えるきっかけになった」。個人、つまり「私」は彼女の作品を解くカギ。案外、この配役は当たりかも。

 「世界のあらかたの人々が、自分とは、わたしとは、何々であるところの何々でありますよってことを、(中略)個人的によろしく定義してはるように、わたしは奥歯であるのやと、云うてもええんとちやうのん」(『わたくし率 イン 歯ー、または世界』より)

 体の部分に固執して朗々と続き、読むと打ちのめされる文体。「ウザイでしょ」と笑わせる一方で「樋口一葉の文章も句点がないんですが、私の眼のリズムにあったんです。文章を読むのは『眼』でしょ。生理的快感はある」とも。「乳と卵」の巻子のように、「人に意見を聴くが、答えがほしいわけでもなく、結局、人を巻き込んでわが道を突き進む」−という「大阪人」の世界を描いた作品だから「大阪弁」が必要なのでは、と勝手に想像したが、答えは違った。

 「特に『乳と卵』は、女性であることや自分の体、つまり選べないものとの対峙(たいじ)、そして克服がテーマだった。大阪弁もそうしたものの装置の一つだった」「同じものはいらない。やったことは全部壊す、チャラにしたい」という考えもあり、次作は標準語、男の子が主人公だという。

 番組スタッフの評は「気配りが行き届き、責任感が強い女性」。高山病に苦しみながらも、現地で2週間を過ごし、離れるときには涙を流した。作品のあり方について「表現者である以上、大多数のニーズを感受して繰り広げていく。私の理想は『自分の井戸を掘れば、すべての井戸につながること』」と語る。「孤高」と表現したが、真実はやや異なるようだ。取材が終わると、「次作ができたらお送りしますので、ぜひ読んでください」と深く頭を下げた。そのていねいさが、とても印象的だった。

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