記事登録
2008年11月16日(日) 15時16分

金融サミットでは追加的措置強調、市場は即効性乏しいと評価ロイター

 [ワシントン 15日 ロイター] ワシントンで行われた20カ国・地域(G20)による緊急首脳会合(金融サミット)が15日閉幕。会議終了後に会見に臨んだ各国首脳は、口をそろえて成果を強調したが、市場では、課題解決に向けた即効性を疑問視する声が多い。
 サミットは、世界経済の成長回復や世界の金融システム改革に向けて協調することで合意するとともに、「必要なあらゆる追加的措置の実施」を盛り込んだ首脳宣言を採択した。
 宣言では内需刺激のための財政政策の活用のほか、金融政策による支援にも言及。監督・規制当局による国際連携の強化や国際通貨基金(IMF)、世界銀行など国際金融機関の機能強化を含めた金融市場改革の原則を確認し、実行の工程を明示した行動計画をとりまとめた。
 <金融システム安定に「あらゆる追加的措置」、金融政策にも期待感>
 首脳宣言では、現在の金融危機の原因について「この10年弱の世界経済の高い成長、資本フローの伸びおよび長期にわたる安定が続いた期間に、市場参加者はリスクの適正評価なしに高利回りを求め、適切なデュー・デリジェンスを怠っていた」と分析するとともに、「いくつかの先進国では、政策・規制当局はリスクを適切に評価せず、金融の技術革新についていけなかった」と当局サイドの対応にも問題があったことを認めた。
 こうした反省を踏まえ、宣言では「努力の継続と金融システム安定に必要なあらゆる追加的措置の実施」を表明。金融危機が世界の実体経済に影響を与える中で「適切と判断される場合における金融政策による支援の重要性を認識」と金融政策に期待感を示す一方で、「財政の持続可能性の維持に資する政策枠組みを確保しつつ、状況に応じ、即効的な内需刺激の財政施策を活用」とさらなる財政政策の必要性に踏み込んだ。
 財政措置についてカナダのハーパー首相は会議終了後、「金融政策だけで世界経済は危機から脱却できないとの見解で一致した。追加的な財政措置が必要になるだろう」との認識を示し、同国は財政黒字にあるが「世界経済の需要拡大のためにわれわれができることは何でもする。追加の(財政)措置を検討している」ことを明らかにした。
 ブラウン英首相も景気刺激に向けた財政政策で協調することが各国の内需を支援するとし、「今後数週間に多くの国がこの路線にのっとり行動する」と指摘。
 オバマ政権への移行期間にあたる米国では、ブッシュ大統領から追加の景気刺激策に言及がなかったものの、ブラウン英首相は「財政政策の協調には、オバマ次期政権下の議会で審議される提案も含まれていると信じている」と期待感を表明した。
 一方、日本の麻生太郎首相は会見で、通貨体制問題の根底には貿易の不均衡があるとした上で、会議では基軸通貨国には赤字体質の改善を求めるとともに、外需依存の国には内需拡大に努めることを求める議論があったと語った。日本は金融危機の直接的な影響は軽微で、経済構造は外需依存型だが、財政事情は先進国の中で最も厳しい状況に置かれている。国費5兆円程度の追加経済対策に伴う第2次補正予算案の国会提出時期も決まっていない段階にあり、麻生首相に同行した中川昭一財務相兼金融担当相は、追加財政措置について「財政出動をしようと思えばできるが、自ずと規律というものがある」と述べるにとどめた。
 <金融市場改革に向け「行動計画」、早期に会計基準見直しや主要行監督を強化>
 サミットでは現下の金融危機の克服と再発防止に向けた監督や規制の枠組みの強化で合意。金融市場改革について、1)透明性および説明責任の強化、2)健全な規制の拡大、3)金融市場における公正性の促進、4)国際連携の強化、5)国際金融機関の改革──の5つの共通原則を確認した。これらの原則を「完全かつ精力的」に実行するため、各国財務相の責任に基づいて追加的な提言の策定を要請した行動計画もとりまとめた。
 具体的には、2009年3月31日までに早急な対応が必要な措置として、複雑で流動性のない商品について国際会計基準の見直しと調整を求めるほか、信用格付会社の規範の採用とその順守を監視するメカニズムの採用の検討など格付会社に対する強力な監督、国境を越えて活動する主要な金融機関すべてに対する監督、金融安定化フォーラム(FSF)加盟国の新興市場国への拡大や国際通貨基金(IMF)など国際金融機関の機能強化などを挙げた。
 こうした改革への取り組みについてブラウン英首相は「新たなブレトンウッズ体制への道」と表現し、「首脳宣言を見れば、われわれが将来に向けた新たな体制を構築しようとしていることは明確だ」と説明した。
 <各国首脳が成果を強調、市場は「総花的」の見方も>
 こうしたサミットの結果について、ブッシュ米大統領が「非常に生産的だった」と語ったように、各国首脳は異口同音に成果を強調した。
 特に、外貨準備を活用したIMFへの最大1000億ドルの資金融通など、国際機関の機能や資金基盤の強化などを会議に先立って表明していた麻生首相は「(今回のサミットが)歴史的なものと後世、評価される」と指摘。1997─98年に金融危機に直面し、克服した日本への期待の大きさと役割の大きさを感じたと語り、「日本の経験を示し、新しい枠組みを主導し、具体的な提言も行った。宣言にも反映された」と議論を主導できたと評価した。
 麻生首相は2009年4月末までに開催する予定の第2回会合の日本開催に意欲を示しているが、フランスのサルコジ大統領は会議終了後にロンドンで開催される可能性があると発言。次回会合に向けた各国の政治的な思惑も見え隠れするものとなった。
 市場からは、今回のサミットについて「新興国、途上国に対する支援や全体的な政治的理解、国際通貨基金(IMF)へのコミットメントなど、議論の方向性としてはよいもので、株安を防ぐ内容というイメージ」(野村証券・シニアストラテジストの冨永敦生氏)と一定の評価が聞かれるものの、「即効力のある政策は出なかった。市場の事前期待が小さかったため特段の失望感はないが、サミットはポジティブサプライズも作れなかったといえる」(バンク・オブ・アメリカ・日本チーフエコノミスト兼ストラテジストの藤井知子氏)と即効性に疑問を呈する声も多い。
 JPモルガン・チェース銀行・チーフFXストラテジストの佐々木融氏は「サミットでうたわれた透明性および説明責任の強化や健全な規制の拡大、公正性の促進などは、先行きに向けた理想論。サミット宣言は総花的だ」とし、「現在の問題は『今をどうするか』だ。その観点から言えば、サミットは何もなかったに等しい」と厳しい評価を示している。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081116-00000354-reu-bus_all