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2008年11月14日(金) 00時00分

「鋼材」不況 輸出止まった…読売新聞


輸出が止まり、山積みになった鉄スクラップ(7日、千葉県船橋市で
鉄くず 在庫の山々

 急激な円高と韓国・中国の建設鋼材の需要の落ち込みが、鉄くずの回収業や輸出業を直撃している。北海道、山形、千葉……。各地を訪ねると、行き場のない鉄のスクラップが巨大な山を築いていた。

給料カット「いつまで我慢」

 北海道釧路町。回収会社の敷地には、鉄くずが7メートルもの高さに積み重なり、そのそばで、1人の作業員が回収した配電盤などを手作業で分解していた。

 「することがないんですよ」。経営者の村上祐二さん(35)が「ほかの社員には、工場の壁を修理させている」と話した。

 昨年まで、1トン3、4万円で卸していた鉄スクラップは今年7月に7万円近い値をつけた。それが8月になると、輸出先の韓国で建設会社の経営破綻(はたん)が相次ぎ、中国でも北京五輪の建設ラッシュが下火になったことで鋼材の需要が落ち込み、1万円を割り込んだ。さらに9月からの急激な円高・ウォン安で、輸出相手との価格交渉が折り合わず契約が成立しなくなった。

 その結果、村上さんの会社は8月、鉄くずの販売で1000万円もの赤字を出し、今月、16人いる社員に土曜の出勤を月1回に減らすよう命じて給料カットに踏み切った。「時間ができるから家族旅行にでも行っておいでよ」。明るく話してみたが、顔が引きつっていたのが自分でわかった。

 町内の別の回収会社はもっと深刻だった。

 経営者の男性(60)は「こんな暴落は30年で初めて」と顔をゆがませた。4人の社員に払っていた月25万円前後の給与は今月から半額にした。暮れのボーナス15万円も払えそうにない。

 「将来どころか明日のことが心配。鉄の価格が持ち直すなら我慢できるが、そんな保証はない。いつまで耐えればいいのか」。8歳と2歳の娘がいるという社員の男性(32)もそうつぶやいた。

 山形県酒田市の鉄スクラップ加工会社は輸出の激減で数千トンの在庫を抱えたままだ。従業員10人の仕事もなくなり、役員の男性(61)は「これまでは社員の給料は下げなかったが、もう限界」と嘆いた。

 千葉県船橋市。鉄スクラップの輸出を手掛ける商社の保管所には15メートル以上の高さの山がそびえていた。総重量は2万5000トンに上る。最近、少し買い手がついたが、先月までの3か月は輸出がほぼストップし、先月の売り上げは前年の5分の1だった。

 日本の昨年の鉄くずの輸出量は645万トンで世界有数の「輸出大国」。それが今は輸出の落ち込みで価格も暴落し、これまでとは逆に「お金をもらわないと、回収業者から鉄くずは引き取れない」と考える大手の買い取り会社もある。

 「そうなったら商売にならない。何とか生き抜くことを考えるしかない」。東京・荒川区で40年以上、個人で回収業を営む慶徳正昭さん(63)は、逆風を肌で感じている。

http://www.yomiuri.co.jp/national/kishimu/kishimu081114_01.htm