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2008年11月14日(金) 00時00分

「今後のイノベーションはクラウドで起こる」--グーグルが日本でエンタープライズイベントを開催読売新聞

 「今後、テクノロジーのイノベーションはクラウド上で実現されていく」

 Google Inc.エンタープライズ部門製品企画担当ディレクターであるMatthew Glotzbach氏は、11月12日に開催された同社の企業向けソリューション紹介イベント「Google Enterprise Day 2008 Tokyo」において、グーグルが体現するクラウドコンピューティングが、エンタープライズシステムに対して与えるインパクトについて、製品デモを交えつつ訴えた。

 「Googleエンタープライズ製品の現在と未来」と題された基調講演では、同社のこれまでの企業向けサービスや製品に対する取り組みを振り返るとともに、現在提供されている製品で、どこまでのことが実現可能になっているのかが示された。

 グーグルの企業システムへのアプローチは、2002年に発売された「Google Search Appliance」(日本では、2005年にGoogle検索アプライアンスとして発売)に始まる。Glotzbach氏によれば、グーグルは「シンプルなインストールと保守」「質の高い検索結果」の2点を最重要課題として企業内情報検索分野に乗り込んだという。

 そして、2004年にはウェブメールサービス「Gmail」の提供を開始。インターネット上で提供されるギガバイト級のストレージ、Ajaxを駆使したブラウザベースのリッチなユーザーインターフェース、強力な検索機能は、当時において極めて画期的なものであり、Glotzbach氏も「クラウドのパワーを初めて見せつけた、ウェブアプリケーションの進化だった」と自負する。そして、Gmailを端緒に生産性向上ウェブアプリケーション群である「Google Apps」の提供へとつながっていく。

 同氏は、特に企業に対して今後グーグルがフォーカスする分野として「Enterprise Search」「Google Apps」「Geo(地図、航空写真)」の3つの分野を挙げ、Googleのイントラネット環境である「imoma」でのデモンストレーションを行いつつ、そこで実現されるコンピューティング環境を紹介した。

 imomaの外見は、パーソナライズドホームページである「iGoogle」に似たもの。「Googleでは“検索”がすべての作業の出発点」(Glotzbach氏)と言うとおり、このイントラサイトは「検索」に最適化されている。Glotzbach氏が、「東京事務所のスタッフを探す」ために検索ボックスに氏名を入力すると、インクリメンタルサーチの要領でドロップダウンリストにスタッフのコンタクト情報が表示される。加えて、イントラネット検索ならではの機能として、ユーザー権限に応じた検索結果へのアクセスコントロール、デスクトップサーチとの統合、および検索結果画面に対してユーザーがWiki的に情報を追加できる機能が披露された。

 シンプルな操作でリッチな情報を提示するユーザーインターフェース(UI)、ユーザーのリアクションが検索結果に影響を及ぼす「ソーシャルシグナル」、加えて管理面では多数のアプライアンスを統合可能なフェデレーション機能、管理APIの充実といった点が強調された。

Appsで「パワーコラボレーター」が生まれる

 引き続き、Gmail、ガジェット、カレンダーなどの機能を統合した「Google Apps」に関するデモが行われた。

 Glotzbach氏は、まずGmailで自分あてに送られてきたという今回のカンファレンススケジュールに関する日本語のメールをオープン。「日本語が分からないので……」と言いつつ、翻訳機能を利用して、メールを瞬時に英語へ翻訳。その後、Gmailの画面内でGoogle Talkのリアルタイム翻訳機能を介したチャットへ移行し、リリースされたばかりのビデオチャット機能を披露した。

 「これだけの作業を行うにあたって、ユーザーは追加作業どころか、別アプリケーションの立ち上げさえも必要ない。これは、コンシューマーだけでなく、ビジネスユーザーにとっても大きなインパクトがある。企業が普通のやり方でこうしたことをやろうとすれば大きな投資が必要になる」(Glotzbach氏)

 続いて「クラウドの情報を自在に引き出すことによるポテンシャル向上」の一例として、Google Spreadsheetsを使ったデモを実施した。Spreadsheet上のセルにGoogle関数を利用してアジア太平洋地域の国々と各国の首都名をオートフィル。さらに最新の人口情報をネットから取得し、Google Mapsの地図情報とともにシート上に表示させた。こうして作成したドキュメントは、ガジェット化してポータル上にマッシュアップすることもできる。もちろん、そこで表示される情報は常に最新の状態に保たれる。

 Glotzbach氏はGoogle Docsについて、オフィスアプリケーションの「軽量版」というよりも、ドキュメントを通じた「コラボレーション」に主眼を置いている点を強調。こうしたアプリケーションをクラウドで展開することで、これまでになかったさまざまなコラボレーションが実現できるという。また、企業内でITを駆使して仕事を遂行する人としての「パワーユーザー」の概念は変化し、企業内外の情報を価値のある形でマッシュアップできる人材としての「パワーコラボレーター」が現れるだろうとした。

 最後に同氏はメッセージとして「UIがシンプルだからといって、その機能までが単純だと考えてはいけない。今後、テクノロジーのイノベーションはクラウド上で実現されていく。旧来のソフトウェアが抱えていた長期のバージョンアップサイクルや高額なライセンス料金は見直しを迫られることになる」と述べ、ITコンシュマライゼーション、そしてクラウドコンピューティングの先駆者としてのグーグルが企業に与えるメリットを訴えた。

 基調講演後、Google Moderatorを利用しておこなわれたQ&Aセッションでは、「Google Appsを採用した場合、利用企業側が継続的に統制を維持していることをどのようにして示せるか」という質問が出された。グーグルでは、同社の企業向けサービスが米国公認会計士協会が策定した監査基準書「SAS70」に対応可能であるとし、特に企業間でのコラボレーションを行っている場合などに、監査基準書作成の手間を低減できることが示された。(ZDNet Japan)

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http://www.yomiuri.co.jp/net/cnet/20081114nt02.htm