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2008年11月13日(木) 00時00分

職場転々 ネットカフェ難民読売新聞


インターネットカフェの夜間割引時間を路上で待つ「ネットカフェ難民」の男性(11日夜、東京・豊島区で)=横山就平撮影
給付金 行き渡るのか

 景気対策の目玉として12日、国民1人あたり1万2000円の支給が決まった「定額給付金」。深夜の都心を歩くと、その恩恵を受けられない人たちがいた。多くは、住居を持たず、インターネットカフェを泊まり歩く「ネットカフェ難民」だった。

「引換券受け取れない」

 池袋の繁華街にあるネットカフェ。午後8時、「3年前から住む場所がない」という男性(34)が、店の前でたばこを吸いながら時間をつぶしていた。「10時間1480円」で利用できる夜間割引は始まったばかり。すぐに入ると、冷え込みのきつい早朝6時には店を出なければならないからだ。

 収入源は、リース会社のアルバイト。日当は1日1万円で仕事は月12〜15日しかないため、カプセルホテルに泊まるのは週3日で、あとはネットカフェで夜を過ごしている。全財産は携帯電話と着替えを入れたバッグだけで、1人1万2000円の定額給付金では、今の生活から抜け出せるとは思えないが、何日分かの暮らしの糧にはなる。

 しかし、住民票は、絶縁状態になっている新潟の実家に残したまま。今回の定額給付金は、住民登録をした住所地に送られてくる引換券を、市区町村の窓口に持参しなければ受け取ることができない。それを知って「受け取るには、新潟に行かなければならない。でも交通費にもならないから、もうあきらめている」。

 今は仕事を探しても日雇い派遣などしかない。定額給付金に使う2兆円もの予算があれば、自分のように安定した仕事がない人を救うために使ってほしいと思う。「僕たちは国のセーフティーネット(安全網)からこぼれ落ちているのだろうか」。給付金のニュースを見ても、かえって失望の気持ちが強くなっている。

 減税よりも、現金を支給するほうが、納税額が少ない低額所得者への生活対策になるとして決まった定額給付金。それをネットカフェ難民やホームレスにどう支給するのか。総務省「定額給付金実施本部」の担当者は「非常に難しい課題」と語り、せっかくの給付金が生活に苦しむ人に行き渡らない可能性を認める。

 「『貧しい人への対策』などと言いつつ、住居を持てない人たちが受け取れないのは矛盾している」。生活困窮者を支援するNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の稲葉剛代表理事(39)は指摘する。

 沖縄県出身で派遣会社に登録している男性(53)も9月末から都内のネットカフェで生活している。静岡県内の部品工場から契約を解除され、寮を出なければならなくなった。住民票は、既に引き払った郷里のアパートに置いたままだ。

 職場が変わるたび、派遣会社の寮などを転々とする派遣労働者。その多くが住民票を、実家や以前の住まいに置きっぱなしにしている実態がある。

 男性は不安そうに語った。「給付金があれば暮らしの足しになるのに、自分には住民票を置くところがなく、引換券も受け取れない。派遣会社から次の仕事の連絡もない」。冬に向かう中、路上生活を覚悟する日々だという。

ネットカフェ難民 アパートなどを借りられず、インターネットカフェや漫画喫茶で寝泊まりする人たち。厚生労働省の昨年の調査では推計5400人で、半数は日雇い派遣やパートなど「非正規労働者」とみられる。

http://www.yomiuri.co.jp/national/kishimu/kishimu081113.htm