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2008年11月13日(木) 13時40分

【法廷から】「ははは。そうっすね」緊張感ゼロ、薬物使用の男性被告産経新聞

 検察官の追及に薄笑いを浮かべ、発する言葉は「そうっすね」「はぁ?」。入院中の娘をよそに、内縁の妻とラブホテルで情事にふけり、揚げ句の果てに覚せい剤取締法違反容疑で2人そろって逮捕…。

 自宅で覚醒(かくせい)剤を使用したとして、覚せい剤取締法違反の罪に問われた男性被告(29)の初公判が12日、東京地裁で開かれた。

 ボサボサの頭に、無精ひげを生やした被告は、姉と母親に伴われて出廷した。

 検察側の冒頭陳述などによると、大学中退後、養父が経営する会社に勤めている被告は、内縁の妻とその間にできた娘と暮らしていたという。

 14歳からシンナーの使用を始めた被告は、16歳からは覚醒剤に手を染め、今年9月17日に逮捕された。被告の妻も、同罪でともに逮捕されたという。

 情状証人として、被告の姉が証言台に立った。

 弁護人「事件のことを聞いたとき、どうでした?」

 姉「びっくりしました」

 弁護人「薬を使っていたのは、知ってましたか?」

 姉「全く知りませんでした」

 弁護人「どうして使ったと思います?」

 姉「2年前に、子どもが生まれたため、自立しなきゃいけないというプレッシャーや、一昨年に最愛の父を亡くしたショック…。あとは(持病の)胆石の痛みを紛らわせるために、使ったんだと思います」

 質問に答える姉の口をついて出るのは、弟をかばう言葉だけだった。

 その後の被告人質問では、逮捕当時、被告の娘が入院していたことが明らかになった。娘の入院中に、夫婦で逮捕された被告。検察官は心底あきれた様子を見せていたが、被告人質問が進むに連れ、それは怒りに変わっていった。

 検察官「娘さんが入院中で、苦しんでいたのに、(覚醒剤を使って)悪いと思わなかった?」

 被告「思ってますね」

 検察官「しかも、あなた、娘さんの入院中に、(内縁の妻と)ラブホテルに行ってますよね?」

 被告「はぁ? 行ってないっす」

 検察官「でも、検察官が調べたときには、そう言ってましたよね?」

 被告「あぁ! 行きました、行きました。『ストレス発散しに行くか』ってことで。どうしても(娘と)一緒にいるから、そういうこと、できないじゃないっすか。ははは」

 検察官「あなた、調書に書いてあることは、全部正しいんですよね?」

 被告「はい」

 検察官「『覚醒剤を使うと、無性に女とセックスしたくなって、実際にしたこともあった』って言ってましたよね? シンナーとは違う、たまらない快感があったって。(姉が言うような)ストレスから手を出したんじゃなくて、その快感を得るために、(覚醒剤を)使ったんじゃないんですか? 違いますか?」

 被告「ははは。そうっすね」

 「快感を得るため」と、覚醒剤を使った理由をあっさり認めた被告。傍聴席の姉は思わず、ため息をついたようだった。

 検察官「あなたね、普通こういうところに来たら、みんなもっと真剣な面持ちなんですよ。笑顔で答えてますけど、今後を決める重要な場なのに軽々しく考えてるんじゃないの?」

 被告「いや、そんなこと、ないっす。緊張すると、笑っちゃうんですよ」

 へらへら笑って質問に答える被告は、検察官が厳しく非難しても笑い続けていた。たまりかねたように、裁判官が口をはさんだ。

 裁判官「今、この部屋に何十人といるけど、傍聴席を含めて、笑ってるの、あなただけですよ!」

 被告「どうしてもクセで。緊張すると、笑っちゃうんですよね」

 裁判官「(裁判所に出した)反省文には『自分に厳しくする』ってあるけど、今、それできてる?」

 被告「はい、努力しています」

 裁判官「ふーん。今いくつなんでしたっけ?」

 被告「29です」

 裁判官「何で、覚醒剤は禁止されてると思う?」

 被告「依存性が強くて、またやりたくなっちゃうから…」

 裁判官「どうして依存しちゃうとダメなの?」

 被告「犯罪の認識が甘くなってしまうから…」

 裁判官「それがわかったのはいつ?」

 被告「最近ですね」

 16歳から覚醒剤を始め、29歳で逮捕されてようやく、覚醒剤の危険性に気づいたという被告の言葉は、あまりに軽く、信じがたかった。その態度を見ていると、本当に気づいたのかどうかさえ疑わしく思える。

 覚醒剤を使用しても、被告にとって不利益は何もないのではないか…。軽薄な被告の姿を見ていて、そんなことをふと思った。

 もちろん、覚醒剤で体はむしばまれる。逮捕され、こうして法廷にも立たされている。それでも、被告はこの先、温かく迎えてくれる姉の家で暮らし、養父の経営する会社でも解雇されないという。子供の世話すら姉が見てくれる。薬物にからむ裁判を傍聴していると、職場を解雇され、家族からも見放される被告を何人も目にする。それに比べて、この被告は“恵まれた環境”にいるといえる。しかし、被告にとってそれはぬるま湯のような環境と言えるかもしれない。また、この被告と法廷で会うような気がしてならない。

 検察側は懲役1年6カ月を求刑。判決は今月25日に言い渡される。(徐暎喜)

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