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2008年11月13日(木) 10時05分

<前航空幕僚長>憲法改正論にまで踏み込む「田母神論文」の危うさ(3止) 山口大・纐纈さん「制服組の欲求?」毎日新聞

 ◇山口大教授・纐纈厚さん「制服組の欲求?単独プレーで片付けられない」

 これに対して、「制服組がこれだけ赤裸々に誤った歴史認識を表明した例はなかった」と危機感を募らせる研究者もいる。「文民統制 自衛隊はどこへ行くのか」(岩波書店)などの著書がある山口大教授(日本近現代史専攻)、纐纈(こうけつ)厚さんもその一人だ。

 実は、現役の制服組幹部による「問題発言」は今回が初めてではない。別表をご覧いただきたい。これまで波紋を呼んだ制服組幹部の発言というのは、法制上の問題点に関してのものがほとんどで、歴史認識を直截(ちょくせつ)的に論じたのは今回が初めてといっても過言ではない。それだけに、纐纈さんの危機感はぬぐえない。

 「論文後段は、いつまでも米国の従属軍的な立場でなく、自律的な立場を取り戻さねばという趣旨で書かれています。戦前の日本を縛った『アジア・モンロー主義』とも重なる。アジアで日本が単独覇権を握るため、米英に依存せず、自前の軍装備や資源供給地を確保しなければならないという考え方で、政財界にも広がり戦争への道を切り開く一因となった。今の制服組にもそうした欲求があるのかもと思うとぞっとします」

 田母神論文には秘められた狙いがある、とも言う。

 「国会でもメディアでも、彼はとにかく自説を説きたいんですよ。批判も多いが、共感もあると踏んでいる。いずれ自衛隊内外から『よくやった』との反応もあるでしょう。推測の域を出ないが、これは彼の単独プレーでは片付けられない気がしますね」

 作家、半藤一利さんのベストセラー「昭和史 1926−1945」(平凡社)。33(昭和8)年に大阪で起きた兵隊の交通違反をめぐって警察と軍が激しく対立した「ゴーストップ事件」を論じた個所で、半藤さんはこう記す。<日本は決して一気に軍国主義化したのではなく、この昭和八年ぐらいまでは少なくとも軍と四つに組んで大相撲を取るだけのことができたといえます。ただし、軍にたてついて大勝負をかけた事件はこれをもって最後となり……軍が「ノー」と言ったことはできない国家になりはじめる>

 田母神論文の書かれた2008年を、後世の歴史家はどう位置づけるだろう。今のこの国に“いつか来た道”の再現を拒む力は残っているか。問いは田母神氏ではなく、私たちに突きつけられている。 

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