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2008年11月13日(木) 09時04分

“良心的”ではダメ? コンサルタントで大儲けする方法Business Media 誠

 経済アナリストを名乗り獨協大学教授でタレントでもある森永卓郎さんの近著『モテなくても人生は愉しい』(PHP研究所)を読んだら、森永さんの旧三和総研(現三菱東京UFJリサーチ・アンド・コンサルティング)時代の話が面白かった。実は筆者は、森永さんのご在職とも重なる時期に三和総研(途中で名前が変わってUFJ総研)に在職していたことがあるのだ。

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 森永さんは三和総研時代に、受託調査のビジネス立ち上げに関わるのだが、順調である限り、経営者にも上司にも干渉されない研究員による自由と自治を尊重したチーム運営を確立しようとして、尽力された。筆者は、この体制ができてから三和総研に入社して(通算11回目の転職だった)、「珍しい仕組みの会社だなあ」と思ったことを記憶している。このユニークな経営システムについては森永氏の本を読んでいただくとして、三和総研時代に「これは大変かもしれない」と思ったことがあるので、今回は、そのテーマについて書いてみよう。それは、コンサルティングの値段の決め方だ。

●プライシングが問題

 当時の三和総研の主なビジネスは、例えば官公庁からナントカ白書の一部分の作成を請け負ったり、企業や社団法人に対して何らかの調査に基づくコンサルティングをするというようなものだった。

 発注者側は、特定の作業に三和総研の知的労働力を使うことができる。作業のために必要だからといって人を雇うと、固定的人件費を抱えなければならない。しかし1年中必要な作業ではなかったり、将来必要がなくなるかもしれない作業の場合、特定の作業を三和総研のようなシンクタンクに委託すると、そのときはお金がかかっても、将来不必要になった場合のコストの心配をしなくていい。調査仕事での“人材派遣ビジネス”に近い。

 問題は、当時の三和総研のプライシングだ。率直に言って、三和総研のコンサルティング・プロジェクトの価格設定は極めて良心的だった。筆者が籍を置いていたのは金融関係のコンサルティングをする部署だったが、基本的に、投入される人員と日数(あるいは時間)に応じてプライシングされていた。人により、仕事によって多少のサジ加減はあったが、ヒラの研究員は1日いくら、主任研究員なら1日いくら、といった調子で、プロジェクトに掛かる期間に応じて価格が積算されていた。

 単価は正確に覚えていないが、1人当たりの人件費の2倍強くらいの値段だった。従って、粗利の中からの会社の取り分を考えると、研究員は、自分の時間を受託プロジェクトで埋める必要があり、これに加えて、例えば3カ月で見積もった仕事を2カ月でこなして1カ月分利益を出すというような働き方をしていた。

●名前が違うだけで、レポート内容に大差はない?

 森永さんの本にあるように、「シンクタンクは親の死に目よりも締切厳守」という感じで働く。プロジェクトの締め切りが集中する時期には、残業に次ぐ残業で健康を害する研究員もいた。ただ筆者が「問題だ」と思ったのは、このプライシング方法では良心的過ぎてなかなか儲からないことだ。営業をやり損なって研究員のカラダが空くと赤字になるし、それを恐れて受託仕事を増やすと締め切りで死にそうな思いをする。

 一方、10年近く前に、外資系のコンサルティング会社で名を馳せた有名コンサルタントA氏の独立後のプライシングを聞いたことがある。

 このA氏は、コンサルティング先の企業に着手金として年間4000万円を要求する。この根拠が意表をついていて、「これは副社長の年収だ」という。「副社長でこれくらい取れる会社でなければ、俺はやらない」とA氏はいう。副社長に期待される役割は、社長を助けて、経営戦略をサポートすることだが、「俺は副社長よりも役に立つ」ともこのA氏は言っていた。

 副社長とはなかなかいいベンチマーク(評価の基準)を見つけたもので、このA氏よりも弁の立つ副社長は滅多に存在しないだろう。もちろん4000万円に加えて、研究テーマごとにプロジェクトを作り対価を請求するし、自分が使った時間、旅費や調査費などプロジェクトに掛かったコストは別途請求するのだ。

 かつての三和総研と比較すると、三和総研は主として労働力を売るプライシングなのに対して、A氏はまず自分の名前のブランド価値に巧みな理由を付けて売っていて、さらに掛かったコストを請求する。

 市場調査に基づく経営戦略の策定のようなプロジェクトで、三和総研のようなシンクタンクと外資系のコンサルティング会社で仕事の内容がどう違うかといえば、「大差はない」と筆者は思う。かつて筆者は金融関係のプロジェクトに取り組んだ有名外資系コンサルティング会社のコンサルタントにレクチャーを頼まれて話をしたことがある。当時のA氏はもちろんMBAホルダーであり、後に某大学で教授を務めるようになったが、金融知識はせいぜい「素人の上」だった。同じテーマについて、三和総研が2000万で請け負うレポートと、有名外資系コンサルタントが3億円プラスアルファで書き上げるレポートのどちらが役に立つかは「ケースバイケース」だというしかない。しかし名前の有り難みは、はっきり違う。

●「良心的」では儲からない

 ここでは、外資系コンサルティングファームの商売を邪魔したいわけではないし、顧客企業にもっと賢くなれと説教をしたいわけではない。言いたいのは、知的サービスを売って儲けるには、ブランド価値に大いにハッタリを含む価格を付けなければならないし、それを通用させなければ、“知的派遣労働”に終わってしまって、なかなか大儲けができないということなのだ。

 コンサルタント商売は「良心的」では儲からない。

著者プロフィール:山崎元

経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。以後、12回の転職(野村投信、住友生命、住友信託、シュローダー投信、バーラ、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、DKA、UFJ総研)を経験。2005年から楽天証券経済研究所客員研究員。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえた資産運用分野が専門。雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『会社は2年で辞めていい』(幻冬舎)、『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『エコノミック恋愛術』など多数。ブログ:「王様の耳はロバの耳!」


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