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2008年11月12日(水) 19時09分

【弁護側の最終弁論(上)】「検察は真実を立証できていない」…無罪を主張産経新聞

I 弁護側の主張


 木村衣里さん(被告)は無罪です。

 木村さんにとって、この裁判の目的は何だったのでしょうか。木村さんはこの事件について記憶がありません。この記憶を失った間に何があったのか、真相を明らかにしてほしい、というのが目的なのです。

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 真相を明らかにするのは、検察なのです。検察は立証できたのでしょうか。答えを言えば、できませんでした。

 この事件は、密室の出来事であり、目撃者もおらず、藤家英樹さん(当時53)も亡くなっていません。さらに、木村さんにも記憶はありません。誰もこの事件を語ることはできません。残っているのは状況証拠だけです。

 検察はこの状況証拠を組み立て、1つの推論を組み立てていますが、これは唯一絶対のものではありません。他の推論もすることは可能です。これは、藤家さんの自傷行為によるものです。藤家さん本人が刺したか、木村さんに刺されたかのいずれかです。


II 検察の推論


 検察の推論は以下の通りです。

(1)藤家さんは、午前5時から午前6時40分の間に刺された。

(2)その間、部屋には藤家さんと木村さんの2人しかいなかった。

(3)藤家さんの背中の傷の形状は、木村さんの部屋にあった果物ナイフと一致する。

(4)傷は背中にあり、自傷は困難。

(5)当時2人はSM行為をしていた。

 以上の理由から、木村さんが犯人だとしています。しかし、これは間違いです。


III 藤家さんの自傷行為の可能性


 藤家さんは木村さんに激しい暴力をふるい、それは年々エスカレートしていました。暴力をふるった後は「こんなに愛している衣里を傷つけた」と、自虐行為をしていました。自虐行為にはナイフも使い、その後はセックスをしていました。

 我々からすれば信じられない行為にも見えますが、鑑定医は藤家さんについて「木村さんに暴力を加えることで性的興奮を高め、自虐行為でさらに性的興奮を高める」と診断しています。

 また、藤家さんは木村さんにも自虐行為を手伝わせていました。藤家さんは木村さんにナイフを持たせて、自分を傷つけさせようとしましたが、そのとき意識が清明だった木村さんはこれを拒否しています。

 公判でも、ベルトのバックルにはさんだことによる右指のけがや、携帯で目を殴らせるなどの事実が明らかになりました。いずれの場合も木村さんは記憶を喪失しており、藤家さんからの事後報告によってこうした事実は明らかになりました。


○当日の藤家さんの行動


 この日、木村さんへの暴力は、いつも通り行われました。どの程度の暴力だったのでしょうか。

 木村さんは顔がはれ、左ふとももには内出血がありました。また、散乱した部屋の中央には掃除機のホースが落ちていました。掃除機で頭を殴られ、木村さんは脳しんとうを起こして意識を失ったのです。

 暴力はいつごろだったのでしょうか。

 検察は午前1時ごろか、藤家さんが木村さんのマンションを出た午前4時45分ごろと推測しています。このとき、藤家さんは自宅に戻るために出かけたとみられます。

 木村さんのマンションの防犯カメラの画像を見ると、藤家さんは木村さんが洗った洗濯物の入った紙袋を持っています。近くのコンビニでアルコール類を買い、午前5時ごろに再びマンションに戻ってきました。

 つまり、午前5時ごろから午前6時40分ごろにかけて、事件が起きたものと推測されます。


○弁護側の推論


 藤家さんがマンションに戻った理由は何だったのでしょうか。おそらく木村さんに暴力をふるい、帰ろうとしたが、気持ちが整理できず、木村さんへの未練の思いもあり再び戻ったのでしょう。そして、自虐行為を行いました。藤家さんは当時、重度の肝硬変に罹患しており、性的興奮を得るにはさらに刺激が必要でした。そこで、台所からナイフを取り出したのです。

 弁護側の推論は、荒唐無稽なものでしょうか。藤家さんのこれまでの自虐行為や性癖からも、推論できます。

 藤家さんは背中に致命傷を負いながらも、木村さんとセックスしていたのです。

 傷の形状について、解剖医は「藤家さんがじっとしているところを刺され、藤家さんはそのままじっとしていた」と診断しています。これは藤家さんがこの行為を受け入れている、何よりの証なのです。これは、藤家さんの意志による行為なのです。

(1)藤家さんが自分で刺した可能性

 検察は傷が背中にあり、自傷困難な位置であるとしています。また、傷跡がきれいなことから、解剖医も「刺してすぐに同じ方向に抜いた傷であり、普通の人は痛くてできない」と証言しています。

 しかし、果たしてそうでしょうか。

 物理的に不可能ではありません。また、藤家さんは普段から刃物を愛好し、果物ナイフを孫の手のように使って背中をかくこともありました。

 藤家さんは当時、アルコールを多量に摂取しており、傷の痛みを感じませんでした。また、藤家さんは痛みを感じない性癖の持ち主なのです。

(2)木村さんに命じて刺させた可能性

 藤家さんの左手の中指と薬指には、表皮切創がみられました。木村さんの左手親指に2本の傷、中指の付け根にも切創があります。 どういう状況で傷ができたかは推論するしかありませんが、藤家さんの切り傷は自らの自傷行為のときか、木村さんにナイフを握らせようとしたときに、また木村さんの切り傷は藤家さんがナイフを握らせようとしたときか、もうろう状態で藤家さんを刺したときにできた可能性があります。

     =弁護側の最終弁論(下)に続く

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