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2008年11月12日(水) 02時30分

<定額給付金>「所得制限」めぐり衝突毎日新聞

 総額2兆円規模の定額給付金(仮称)の支給対象を巡る政府・与党内の混乱の背景には、景気対策と迅速性を重視する「全世帯給付派」と、「ばらまき批判」をできるだけ抑えようとする「所得制限派」の衝突があった。さらに、首相がいったん「全世帯」と打ち上げながら、所得制限を容認するよう発言を転換したことが混乱に拍車をかけたため、与党からは官邸の調整能力と首相のリーダーシップを疑問視する声が噴出。年内衆院選を見送り、実績づくりで政権浮揚を図るようかじをきった首相だが、スタートからつまずいた形だ。【犬飼直幸、西田進一郎】

 首相が定額給付金を「全世帯対象」と発表した翌日の10月31日。首相官邸で開かれた経済財政諮問会議は、高額所得者を除外するか、全世帯配布かで意見が衝突した。

 民間議員「豊かな家計ではあまり消費喚起の効果がない」

 鳩山邦夫総務相「単純に手間暇を考えた場合、地方自治体の窓口で配ることになると、どこまでできるかという問題との闘いだ」

 民間議員「やはり上限をどこかに置いた方がいい。自主的申告という考え方もあろうかと思う」

 結局、進行役の与謝野馨経済財政担当相が「所得制限を設けないとも設けるとも、実はどちらにも決めていない」と議論を引き取り、首相の「全世帯配布」の方針をあっさり撤回した。財政再建に重点を置く与謝野氏は、そもそも財政支出を極力抑えたいとの立場。給付金の景気対策としての実効性にも疑問を抱いており、翌11月1日にはテレビで「高い所得の世帯にお金を渡すのは常識から言って変だ」と語った。

 これに対して、巻き返しに出たのが景気対策重視派だ。中川昭一財務・金融担当相は4日、「事務手続きをやっていくとかなり時間がかかる。年度内で迅速にという観点からは一律にやらざるを得ない」と与謝野氏の意向に猛反発した。

 しかし、この時点では、首相は与謝野氏に傾いた。首相は中川氏発言の4日、「貧しいとか生活に困っているところに出す。豊かなところに出す必要はない」と与謝野氏に同調した。ただ迷走する首相に対しては、与党内から「首相の指導力不足」などの声が噴出した。

 10日には、事務作業の膨大化を懸念する自治体を代表し、全国市長会長の佐竹敬久秋田市長が「所得制限なしが望ましい」と会見で表明。現場レベルからの「反対」に、首相もようやく、高額所得者に自発的な辞退を促すことを明確に示した。当初、優勢だった与謝野氏も11日には渋々追認するしかなかった。

 こうした中、民主党の小沢一郎代表は11日神戸市内で記者団に対し、首相が高額所得者の自発的な辞退を促す方針を示したことについて「与謝野さんが言っているように『自発的に辞退』というのは制度じゃない」と、首相を批判したうえで与謝野氏にエールを送った。

 与謝野氏が首相の「全世帯配布」方針に強く異を唱えたことについて、自民党幹部は「これまで黒衣の調整役だった与謝野氏が首相の意向を平然と無視したのは、次期首相を目指すという政治的野心が生まれているからだ」と指摘。小沢氏の発言も、次期衆院選後の政界再編を視野に置き、与謝野氏に秋波を送っているとの見方も自民党内で出ている。

 ◇うんざりムードも

 定額給付金を巡る政府方針が二転三転したため、自民党内ではうんざりした雰囲気が漂った。党内では元々、定額給付金の導入に慎重論が根強かっただけに、調整にかかわった党幹部が「やるべきではなかった。財源は税金ということを忘れてはいけないし、胸が痛む」ともらすなど、正式決定前に制度そのものの是非論まで再燃している。

 自民、公明両党は11日、政調幹部が電話などで最終調整を行った。12日の幹事長、政調会長などの会合で決定する方針だが、検討対象は「給付金」という名称の変更まで拡大。笹川尭総務会長は11日の記者会見で、「支給でも給付でも一緒だが、(名称で)迷うなら、鉛筆を転がして、神に委ねるしかない」とあきれ気味に語った。

 定額給付金制度は政府・与党の掲げた追加の経済対策の目玉。迷走の原因が首相自身の発言のぶれにあり、与党内には「普通は発言する前に調整しておくものだ」と、首相の政策決定手法への不満がくすぶる。自民党内では「こんなことで、次期衆院選のタイミングを判断できるのか」(幹部)として、政権運営への懸念も出始めている。

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