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2008年11月12日(水) 18時38分

【元女優の口から…(16)完】「彼を愛しています」…唇噛み涙ながらに法廷で“宣言”産経新聞

 《37分間にわたる検察側の論告に続いて弁護側の最終弁論に移った。木村衣里(えり)被告は被告人席に座り、弁護側が主張する要旨を移したモニターを上目遣いで眺めている》

 弁護人「木村さんは無罪です。木村さんにとって裁判の目的はなんだったのでしょうか? 何があったのかを裁判で明らかにしてほしいというのが目的です」

 《弁護側は改めて無罪を主張した。検察側が公判で示した立証に対し、ほかにも推論が立てられるということを中心に弁論を進めた》

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 弁護人「事件の特徴は密室で起きたということです。目撃者もいません。藤家(英樹)さんも亡くなりました。検察側は状況証拠から推論を立てているにすぎず、検察側の主張が唯一絶対ではありません」

 《SMの延長で藤家さんを刺したとする検察側の主張に対し、弁護側はどういった推論をたてるのか》

 弁護人「事件は藤家さんの自傷行為によるものと推論します。自らの手による行為か、意識朦朧(もうろう)状態の木村さんにやらせたかのいずれかです」

 《弁護側は検察側が「不可能」とした自傷行為の可能性を述べる》

 弁護人「藤家さんは暴力が年々エスカレートし、暴力をした後、『愛している衣里を傷つけた』と自虐行為をしていました。一般人からすれば信じられない行為ですが、(藤家さんは)性嗜好障害と診断されていました。藤家さんは木村さんにもナイフで傷つけさせようとしていましたが、木村さんは意識が清明なときは拒否していました」

 《弁護側は藤家さんの性的嗜好について繰り返し述べた後、犯行当日の行動について推論を立てた》

 弁護人「モニターをごらんください」

 《法廷内に設置された大型モニターに散乱した室内の様子が映し出された》

 弁護人「木村さんの部屋の写真です。中央に掃除機のホースが外れているのが分かります。これは何を意味するのでしょうか。事件当時、掃除機で殴られ木村さんは脳しんとうで意識を失ったのです」

 《モニターには紙袋を持った藤家さんの防犯カメラ映像が映し出された》

 弁護人「藤家さんは事件当日、自宅に戻ろうと木村さんのマンションを出ましたが戻ってきました。戻ったのは木村さんに未練があったからでしょう。そして性的興奮を高めるために自虐行為をしたのです。こうした推論は荒唐無稽(むけい)でしょうか? これまでも藤家さんは暴力、自傷行為、セックスの繰り返しでした」

 《さらに弁護側は、検察側が衣里被告の犯行の論拠として主張する、傷口がきれいで争った跡がないことについても異論を唱える》

 弁護人「藤家さんが刺されることを受け入れたことの証であります」

 《衣里被告に「刺させた」可能性を示唆しているとみられる。弁護側は再び、藤家さんが自分で刺した可能性について指摘する》

 弁護人「ひとつは物理的に不可能ではありません。次に、普段から刃物を愛好しており孫の手のように使って背中をかくこともありました」

 《傍聴席では「そんなことあり得ない」とでもいいたげに失笑する女性がいた》

 弁護人「さらに藤家さんは痛みを感じない性癖がありました」

 《弁護側の主張に、前述の傍聴席の女性もあきれたように「そんなことあるの?」とつぶやいた。続いて弁護側は、藤家さんを傷つける理由がないことについても言及した》

 弁護人「動機がありません。これまでの性歴でも暴力で興奮を感じたことはなく、むしろ藤家さんの自虐行為を止めてもいました。セックスでも暴力を受ける側にいました」

 《さらに弁護側は精神鑑定の結果について疑問を投げかける》

 弁護人「『朦朧状態ではナイフを握れない』ということを鑑定医は述べましたが、朦朧状態での傷害行為は多数あります。しかも鑑定医はせん妄に関する鑑定歴は1件しかありませんでした。専門的な経験がないのではないでしょうか」

 《弁護人は「背中の刺し傷と死因に因果関係がある」とする検察側の立証についても崩そうとした》

 弁護人「藤家さんは重度の肝硬変でした。背中の傷は普通の人であれば死なない傷です」

 《藤家さんは病気の影響で、血液を固める血中の血小板が、一般の人に比べて極端に少なかった。このため血が止まりづらく、失血性ショックにつながった可能性もあるが、検察側は「木村被告は医師の説明から、血が止まりづらいことを知っており、すぐに119番しなかったのは不自然」と指摘していた》

 弁護人「『血液が固まりにくい』という医師の説明よりも、被告にとっての関心事は藤家さんの余命でした。いつも切り傷を作っては○○(瞬間接着剤の商品名)で(出血を)止めていたこともあり、また、医師の話をそこまで関心を持って聞いていなかったため、血が固まらずに死ぬとは思っていませんでした。つまり、傷害と死に因果関係はありません」

 《そして、弁護人は最後にこうまとめた》

 弁護人「被告は無罪です。弁護人が申し上げた推論に可能性が一つでもあると考えられるなら、検察官の立証は不十分ということです。『疑わしきは罰せず』の大原則に照らし、ご審議ください」

 《裁判長は、衣里被告に証言台へ進むよう促し、「最後に言いたいことはありますか」と尋ねた。衣里被告は小さいが、しっかりとした声で話した》

 衣里被告「私は『当日、実際に何があったのか』というこの一点のみで今日まで至りました。彼が亡くなった現実を受け止め、その現実、責任からは逃げません。しかし、何があったのかをこの法廷で明らかにしてほしいと切に、切に願います」

 《涙をこらえているのか、語尾がかすかにふるえている。そして、正面から裁判長の顔を見つめ、しっかりとした声で続けた》

 衣里被告「私は…。彼を、アントンさんのことを心から愛しています」

 《「アントンさん」とは藤家さんの愛称だ。真っ赤に目を潤ませながらも、法廷に宣言するようにこう述べた衣里被告。唇をかむ姿は、「事件当日に何があったのか」を明らかにできなかった悔しさをにじませているようにも見えた》

 《判決公判は26日午後3時半から開かれる》

       =(完)

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