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2008年11月11日(火) 00時00分

電子マネー「一人一枚」時代読売新聞

「便利でお得」利用者急増

 「Edy(エディ)」や「Suica(スイカ)」など電子マネーの普及が急速に拡大している。主要5社の累計発行枚数は10月末時点で約9100万枚となり、来年には1億枚に達する見通しだ。

 「国民1人1枚」が目前に迫るほど普及した背景には、現金不要の便利さと、買い物に使えるポイントがたまる「お得感」がある。(中沢謙介)

■支払い「1秒」

 電子マネーは、専用の集積回路(IC)が搭載されたプラスチックカードや携帯電話にあらかじめ入金しておき、読み取り機にかざして決済する。電子マネーの特徴の一つが決済スピードの速さ。カードなどをかざして決済が完了するまでの時間は1秒以内だ。

 イオンはジャスコの各店舗で買い物客が自分で商品を精算する「セルフレジ」を導入している。最近は自社の電子マネー「WAON(ワオン)」の利用でさらに買い物のスピードが上がるとアピールしている。商品が数点なら10秒程度で精算が終わるため、有人レジが空いていても、あえてセルフレジを選ぶ人も多い。


イオンはセルフレジで電子マネーを利用すると、ポイントが2倍になるサービスを展開している(東京・江東区のジャスコ東雲店で)

 また、NTTドコモなどの携帯電話に搭載された「おサイフケータイ」機能を使えば、いつでもクレジットカードから電子マネーを携帯電話に補充できるというのも便利な機能だ。運営会社によっては、カードを紛失しても残高込みで再発行するサービスがあるのも現金にはない利点だ。

■ポイントサービス

 電子マネーのICに情報を蓄積できるため、買い物などに利用できるポイントサービスを付けやすい。「エディ」を運営するビットワレットは今月4日、インターネットで生命保険の資料請求などを申し込んだ人に、エディと交換できるポイントをプレゼントする専用サイトを開設した。

 世界経済の混乱や物価上昇で消費者の節約志向が強まっている。ビットワレットは「電子マネーの利用者は、ポイントサービスを使って少しでもお得に買い物をしようとしている。景気低迷で電子マネーの利用が増えるのでは」とみている。

■企業のメリット

 電子マネーは運営、発行する企業側にとってもメリットがある。「スイカ」を運営するJR東日本や「PASMO(パスモ)」を運営する私鉄などの鉄道会社では、券売機前の混雑が減り、自動改札機に入る切符の数が減って機械内部の点検や部品交換、補修費が軽減される。

 セブン&アイ・ホールディングスは、グループで運営する「nanaco(ナナコ)」の利用者の年齢・性別などの情報と購買品目を分析し、商品開発に活用している。傘下のコンビニエンスストアのセブン—イレブンが10〜20歳代向けに発売したオリジナル化粧品は、ナナコの利用情報の分析で実際には30歳代以上の購入が多いことが分かった。そこでパッケージをパステル調から落ち着いた色彩に変更したところ売り上げが増えた。

 また、住宅街では、若い男性に人気の鶏のから揚げを、40歳代以上の女性が夕食のおかず用に買っていることが分かり、夕方は昼間よりも多めに商品を用意することにした。

■見通し

 現在主流の電子マネーは2001年11月、エディの発行が始まり。04年3月には、鉄道用だった「スイカ」が一般店舗の買い物にも利用できるようになった。07年春にはパスモやナナコ、ワオンが相次いで発行され、急速に普及が進んだ。後発3社の合計発行枚数は、発行から4年半が経過したスイカに匹敵する。

 野村総合研究所によると、電子マネーの市場規模は06年度の1422億円から、12年度には2兆2160億円に増える見通しだ。

 ただ、現状では電子マネーを読み取る端末は一本化されておらず、店舗は複数の読み取り機を導入する必要がある。店舗にとって導入費用や設置場所の確保が負担との指摘もあり、クレジットカードのように読み取り端末を共通化できるかどうかが課題となっている。

紛失時には利用停止を

 ビットワレットによると、他人の電子マネーを読み取って自分の電子マネーに移すことは技術的に不可能で、例えば満員電車の中でカバンに入った他人の電子マネーを、専用装置などで読み取って盗むことはできないという。

 ただ、電子マネー入りカードの紛失には注意すべきだ。残高が一定額以下になるとクレジットカードや銀行口座から自動的に電子マネーに補充される「オートチャージ」機能付きの場合、悪用されると被害額が膨らむ可能性がある。発行元に連絡し、ただちに利用を停止するなどの対応が必要だ。

 ICカード型の電子マネーについては、前払式証票の規制等に関する法律(プリペイドカード法)に基づき、運営会社が未利用残高の2分の1以上を財務局に供託する義務がある。仮に運営会社が破綻(はたん)した場合、返金が保証されるのは供託金の範囲までで、未利用残高の一部が戻らない可能性がある。

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20081111nt01.htm