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2008年11月11日(火) 23時29分

「控訴審は1審の裁判員判決尊重」 最高裁司法研が報告書産経新聞

 来年5月に始まる裁判員制度に向けて、最高裁の司法研修所は11日、裁判員らが判断した1審判決について、職業裁判官だけで構成される控訴審は「できる限り尊重すべきだ」などとする提言を盛り込んだ研究報告書を公表した。報告書に拘束力はないが、国民の社会常識を反映した1審判決に対する控訴審のあり方に方向性を示したことになり、各裁判官の実務の参考になるとみられる。

 司法研修所は昨年、裁判官や大学教授からなるチームに、控訴審の位置づけや分かりやすい1審裁判のあり方などについて研究を委嘱。このうち裁判員裁判の結論を控訴審でどう審理するかは、制度導入の議論当初から大きな課題となっていた。

 報告書は、あくまでも1審の裁判員裁判が、法廷に直接提出された証拠とやり取りに基づいて「充実した審理」が行われることを前提としている。

 そのうえで、1審の判断には国民の視点や知識、感覚、社会常識が反映されることから、控訴審は「できる限りこれを尊重して審理に当たる必要がある。破棄相当として審理を差し戻すケースは例外的なものに絞り込まれる」と指摘。控訴審の役割について「事後審である本来の趣旨を、より徹底させるべきだ」と位置づけた。

 量刑についても、よほど不合理であることが明らかな場合を除いて1審の判断を尊重すべきだとした。ただ、「死刑」か「無期懲役」かで1審と控訴審の判断が分かれた場合には、慎重な検討を要するとして判断を保留した。

 裁判員裁判の審理を充実させるための指針としては、「殺意」や「責任能力」といった難解な法律用語や法律概念を簡素で明確に説明することが必要と指摘。この場合、法律用語を安易に簡単な言葉に置き換えるのではなく、「責任能力」は「精神障害のために罪を犯したのか、もともとの人格による判断によるものか」というように、「本当に意味することに立ち返った説明」をすることが適当とした。

 さらに、責任能力をめぐる精神鑑定について、複数の鑑定は裁判員の混乱を招くことから、捜査段階や公判前整理手続きの段階で弁護人の意見も聞き、1回にとどめるべきだとした。

 精神科医らの鑑定意見についても、「心神喪失」や「心神耗弱」といった専門用語を使うと裁判員の心証に影響を与えるとして、犯行時の精神障害の有無や医学的所見のみを提示すべきだとしている。

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 ■刑事裁判の原点回帰

 四宮啓・早稲田大法科大学院教授(弁護士)「控訴審の1審判断尊重は刑事裁判の原則に戻る方向であり、評価したい。これまでの控訴審は、1審の記録を使って証言などを吟味し、裁判官が独自の判断を示してきた。控訴審の役割も1審の手続き違反や不合理な判断の審査という建前と異なっていた。神ならぬ人間が真実に近づくには証拠に直接触れ、口頭で説明を受けるのが最善の方法。裁判員の参加が刑事裁判を本来あるべき姿に戻しつつある」

 ■正しい裁判遠のく

 西野喜一・新潟大法科大学院教授(元裁判官)「控訴審の1審尊重という文章の根底には、国民が決めたことであれば、それが正しいという思想がある。今までの『裁判は真実発見の場であり、客観的に正しくなければならない』という理念から遠ざかったとの印象を強く受ける。最高裁の部局から出されており、実務に与える影響は大変強いと感じる。『裁判員が決めたのだから』といわれても、被告や被害者、国民は素直に受け入れられるだろうか」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081111-00000644-san-soci