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2008年11月10日(月) 23時37分

タイ 占拠で変わり果てた首相府 産経新聞

 タイの首都バンコクで、反政府市民団体「民主主義のための市民同盟」(PAD)が首相府の占拠を始めてから2カ月半が経過した。首相府の機能はすでに旧国際空港であるドンムアン空港に移されており、国政運営に支障はないが、敷地を取り囲むように多くの出店が軒を構え、政府庁舎本来の面影はまるでない。“お祭り騒ぎ”の見物に、時おり観光客の姿さえみられる状況だ。(バンコク 菅沢崇)

 「スチャート財務相の施策は国家の発展につながらない!」。敷地内の特設ステージでPAD支持者が演説すると、参加者数百人がプラスチック製の玩具をたたいて、いっせいに声援を送った。8月26日にPADによる占拠が始まって以来、付近には今も支持者ら約1000人がテントなどで寝泊まりを続けており、午前中から演説に耳を傾ける人も多い。

 「政府の汚職体質が許せないからデモに参加する」と語るのは、中部ペッチャブリー県出身のコラチットさん(31)だ。首相府占拠前からデモに参加しており、約5カ月間、テント生活を続けている。食事はPADが炊き出しを行い、数カ所で食糧を供給しているため、外部に買い出しに出かける必要はほとんどない。映画俳優らも時おり応援に訪れるため、退屈はしないという。

 10月7日に警察・軍と衝突し、2人の死者が出て以来、敷地内への入場はチェックが厳しくなり、PADメンバーによる“私設警察”から身分証の提示が求められることもある。「検問」を通過すると、首相府付近のラチャダムヌン通りから首相府内の敷地まで店が立ち並び、衣料品店やアイスクリームの屋台、マッサージ店まで開業している。週末の夜などは観光客などで結構なにぎわいだ。

 PAD側は前回の警察との衝突で催涙弾が使用されたことを警戒し、敷地内の至る所に目を洗浄するための水ボトルを積み上げ、医薬品を用意したテントも準備している。医師も最低1人は常駐しているという。

 敷地の角には“私設警察”のテントも設営され、タクシン元首相批判の横断幕が張られていた。

 PADは5月末に反政府活動を再開後、国営テレビ局の占拠など41の活動について「勝利宣言」を行い、活動記録を冊子にまとめている。現在も政府が進めようとしている憲法改正の阻止と、タクシン氏の“かいらい政党”と呼ばれる最大与党「国民の力党」の解党を柱に活動を続ける。

 ただ、サラン元警察庁副長官が7日の衝突後、「元警察官1000人を大量動員し、首相府を奪還する」と公言しているうえ、政府支持団体も8万人規模の集会を開くなど、先行きは不穏な雰囲気だ。

 PADの幹部の一人、ピポップ氏(63)は「時間を要してもタクシン元首相に有罪判決に従うよう求めていく。このデモは企業などの寄付でまかなわれている。政府から汚職が完全に追放され、憲法の保護が確認できるまでデモを続ける」と話し、一歩も引かない構えだ。

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