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2008年11月09日(日) 13時51分

オバマ新大統領、真の戦いはこれから 世界も期待と不安産経新聞

 米国の第44代大統領に、民主党の上院議員、バラク・オバマ氏(47)の就任が決まった。大統領選の投開票が行われた4日、オバマ氏の地元シカゴの現地時間で午後10時、米主要メディアが一斉にオバマ氏の当確を報じると、波紋は全世界に広がり、5日には、世界各地でも当選を歓迎する声がわき起こった。

 米国から東に欧州、アフリカ、中東、西にはアジア、オセアニア、南には南米へと、オバマ氏の登場と、その手腕に期待する人々が目立った。過去の米大統領でもここまで世界的な話題を巻き起こした人物もまれだろう。だが、そこにもまた、相互依存の度合いを強めてきた世界のグローバル化が感じ取れる。

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 2001年の米中枢同時テロ(9・11)から世界が「テロとの戦い」という新たな時代に入り、アフガニスタン空爆からイラク戦争をへて、世界は重苦しい雰囲気に包まれてきただけに、その中心にあった共和党のブッシュ政権との決別を抱かせるオバマ氏の登場が多くの人に新鮮味を与えたのは間違いない。政治家としてはより実績のある共和党の上院議員、ジョン・マケイン氏(72)との決定的な違いだったといえるだろう。

 ただ、オバマ氏が登場しただけで世界が変わるものではない。オバマ氏は世界の期待に応えていくという重責を果たしていかねばならなくなった。金融危機に始まり、米国がこれまで消極的だった環境問題への取り組みや、アフリカを中心とした途上国の貧困対策、通商貿易における自由と保護の対立といった世界が不安に思う多くの課題で、それぞれの期待に応えていくことは容易でない。

 しかも、イスラム過激派によるテロはまだいつ起こるとも限らない。国際テロ組織、アルカーイダを中心とするテロネットワークは気がつかないところで広がっていると何度も指摘されてきた。イスラム過激派組織がブッシュ大統領を非難し、その政策に反発して活動を強めてきたとしても、それはテロの大きな要因のひとつにすぎないかもしれない。

 ベストセラー小説「ジャッカルの日」の著者で知られる元記者のフレデリック・フォーサイス氏は以前、9・11が起きた背景として、民主党のクリントン前政権時代に米情報機関のもたらす情報が「情報源が怪しい」という理由で重視されず、後手に回ったことを指摘したことがある。現場の意見をくむ姿勢はどこであろうと欠かせないようだ。

 その後も、ロンドンでは思わぬところから地下鉄を標的にした爆弾テロで市民52人が犠牲になった。それ以外にも、米英の情報機関が連携して封じ込んだテロはいくつもある。イラクやアフガニスタンの米軍基地でもテレビ映像でオバマ氏の当確を駐留米軍の兵士らが見つめていた。かれらの胸中には何が去来しただろうか。オバマ氏の当選に便乗するかのように大喜びする人々とは重みが違う。

 オバマ氏が掲げるような変革が世界でも可能なのだろうか。2007年に退陣した英国のトニー・ブレア前首相はブッシュ大統領と関係を強化しつつ、議院内閣制の英国にあって大統領色を強めた。英国の政治学で「ブリティッシュ・プレジデンシー」という言葉も生んだ。「改革を推し進めるときほど指導力を発揮することが必要になる」と、ある英政府関係者は語ってもいた。

 世界がここまで注目する事態になってオバマ氏は世界に与える影響の最も大きい米国の大統領として適切に指導力を発揮していくことができるか。オバマ氏の真の戦いがこれから始まる。(蔭山実)

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