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2008年11月09日(日) 08時03分

双頭政権 発足半年 ロシア 深まる孤立東京新聞

 ロシアのメドベージェフ大統領が五月に就任、同時に首相となったプーチン前大統領との“双頭”政権が誕生して半年が経過した。この間、グルジア紛争が政権の強硬姿勢を際立たせてロシアの孤立懸念を深め、続く金融危機も甚大な影響をもたらす。相次ぐ試練に政権はどこへ向かうのか。 (モスクワ・中島健二、酒井和人)

■「仮面リベラル」

 「冷戦を求めてはいないが、恐れない」。八月二十六日、南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立を承認したメドベージェフ大統領がテレビインタビューで明言した。

 司法改革などを訴える「リベラル」な姿勢が特徴だった大統領だが、グルジア紛争では欧米を歯牙にかけない「強さ」を見せた。ロシアの中立系世論調査機関によると、九月の支持率は紛争前の70%から83%に上昇、国民の好感も得たようだ。

 だが、それは半面、欧米に対し「リベラル」が“仮面”にすぎないとの疑念を広げ、金融危機の最中、旧ソ連諸国内にすら警戒心を植え付けた。

 西側情報筋が例に挙げるのは、ロシアと連合国家を組むベラルーシの国際通貨基金(IMF)への融資要請。ロシアの頭越しの要請は「西側に従い、ロシアと距離を置くメッセージ」とみられる。メドベージェフ大統領は国民の一定の支持と引き換えに、旧ソ連圏でも孤立を深める負の側面を担うことになった。

 ロシア政治情報センターのムーヒン所長は「大統領はプーチン首相に与えられた仕事をしている」と述べ、それが実は大統領の意思ではないとも分析する。欧州連合(EU)仲介のグルジア和平合意も首相が主導したとし、グルジア紛争は軍事、外交とも依然、首相が実権を握っていることを明確にしたとみる。

 大統領は五日、年次教書演説で大統領任期の四年から六年への延長を提案したが、地元紙は首相の大統領再登板への布石だと報道。国民に不人気な社会改革など、大統領はさらなる負の部分を処理した後「来年にも辞職する」との観測すら漏れた。

 九月の世論調査では次期大統領選に関し、首相の支持が58%に上り、大統領の28%を大きく上回った。

■ドル依存脱却を

 「経済エゴイズムの世界金融独占体制が落ち目となった」。十月三十日、カザフスタンであった上海協力機構首相会議で、プーチン首相は米主導の経済秩序を非難。翌日にはメドベージェフ大統領が「基軸通貨の多様化」を提唱、米ドル依存からの脱却を訴えた。

 いずれも今回の危機の原因が米国にあるとして敵視姿勢を表明したものだが、痛烈な批判はロシアの危機感の表れとも言える。

 ロシアの株価は、企業の国家管理化をにおわす政権の動きを受けて今年五月から下落が継続。グルジア紛争による資本の海外流出と世界の金融危機がその流れに拍車をかけ下落幅は75%にも至った。

 原油価格も急落した事態に慌てた政権は大手銀行・企業救済に約六兆ルーブル(約二十二兆円)も投入。ルーブル買い支えなどで自慢の金・外貨準備も最近、五千億ドルを割り込んだ。

 「危機の深刻化で社会不安が広がれば政権の信任は失墜する。対米批判はその時の社会不安を回避する備え」とは、ロシア下院の情報筋。米国の責任に国民の目を向けてパニックを防ぐのだという。

 五日の年次教書で大統領は、対米批判の一方で銀行預金や年金支払い保護なども力説した。これも国民に「平静」を呼び掛けるためのもの。試練の政権は躍起となっている。

(東京新聞)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008110990080321.html