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2008年11月09日(日) 01時10分

メソポタミア湿原救え、水質データ公開で世界から知恵募る ILEC産経新聞

 フセイン政権時代に荒廃したイラク南部の湿地帯「メソポタミア湿原」を再生するため、湖沼の環境問題に取り組む世界湖沼会議を主催する財団法人「国際湖沼環境委員会(ILEC)」(滋賀県草津市)が湿原の観測資料を公開する計画を進めていることが8日、わかった。湿原は一時約9割が消失。現在は徐々に回復しつつあるが、高い塩分濃度などの水質は改善されておらず、データを公開して世界の専門家から水質改善策の知恵を募り、再生に役立てたいという。

 メソポタミア湿原は、チグリス川とユーフラテス川の合流部に位置し、かつては日本の四国より広い約2万平方キロの面積があった。ヨシなどの植物に覆われた大小の湖や固有の魚や水鳥などが生息。旧約聖書の創世記に登場する「エデンの園」があったとする説もあり歴史的、文化的に重要な地域とされる。

 しかし、1970年代以降、上流でのダム建設などで水量が減少。90年代に入ると、湿地を拠点にする反政府ゲリラに対する旧フセイン政権の掃討作戦で、約9割が干上がり、周辺住民の多くが土地を離れたという。その後、フセイン政権が倒れ、堤防が撤去されるなどし湿地面積は回復傾向だが、水量の減少による塩分の高濃度化、生活排水の流入による富栄養化など、水質の悪化は改善されていない。

 ILECは滋賀県が提唱し、昭和59年から各地で開かれている世界湖沼会議を主催。湖沼や湿原の環境問題に取り組んでおり、平成18年から、国際協力機構(JICA)のイラク人研修事業に協力し、来日した現地の研究者らに対して3年間、水質の分析技術指導などに携わってきた。

 研修生には帰国後、現地の塩分濃度や窒素、リン含有量などのデータを観測してもらい、ILECがこれまでに構築した約100カ国720カ所の湖沼のデータベースに追加登録。世界中の研究者がネット上で閲覧できるようにして、水質を回復させるノウハウなどを募っていくという。

 ILEC支援研修課の上田徹課長は「国連環境計画(UNEP)の協力で、イラク南部湿地帯の世界遺産登録を目指す動きもある重要な時期。湿原の再生に向けて、世界の機運を高めるために一役買うことができれば」と話す。今回の研修で来日中のイラク・バスラ大学のアブドレダ・アルワン副学長は「帰国後、関係機関と協議して参加を決めたい」と前向きな姿勢を見せている。

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