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2008年11月08日(土) 13時20分

ドコモに殴りこみ! “端末は自由”携帯業界の常識覆した日本通信産経新聞

 “ガリバー・ドコモ”にケンカを売った小さなベンチャー企業がある。ヘラクレスに上場する従業員約120人の日本通信だ。NTTドコモから通信網の“開放”を勝ち取り、独自の通信サービスを展開。海外メーカーなどから格安で調達した独自の情報通信端末も提供している。ドコモを筆頭とする巨大通信事業者が支配する国内市場に風穴を開けることができるのか。それとも厚い壁にはじき飛ばされてしまうのか…。

 「この端末は、大手製薬業者が導入を決めてくれた」

 日立製作所やNECなどの大手企業が軒を連ねる東京都品川区南大井の一角の小さなビルにある日本通信の本社。福田尚久CFO(最高財務責任者)は、自信満々で胸を張った。

 目の前には、量販店では見たこともない、USBメモリーのような超小型やシンプルでスマートな端末が並ぶ。

 日本通信のように、自前の通信網を持たず、他社の通信網を活用してサービスを提供する事業者は、「MVNO(仮想移動体通信事業者)」と呼ばれている。同社が業界を驚愕(きようがく)させたのは昨年11月のことだ。

 ドコモの高速通信網の利用条件をめぐり、異例ともいえる総務相による「大臣裁定」を申請。その結果、「従来の3分の1程度」(業界関係者)といわれる格安の条件で通信網を利用する権利を獲得し、ガリバーに勝利したのだ。

 これを受け、今年8月から、法人向けにIP電話とデータ通信を組み合わせた格安サービスの提供に乗り出した。

 日本通信の勝利には、2つの大きな意味がある。一つは、事業者間で決められていた通信網の利用条件が大臣裁定に持ち込まれ、その契約が公開されたことだ。これまでは「通信網を持つ既存事業者に圧倒的に有利」とされてきたが、これにより、他のMVNO事業者も、日本通信と同じ割安な条件で通信網を利用し、格安のサービスを提供することが可能になる。

 もう一つの意味は、MVNO事業者が増えることで、多種多様な端末が世の中に登場すること。いずれも利用者にとってのメリットは大きい。

 利用条件をめぐる闘争では、携帯電話業界の活性化を目的に、事業者数の拡大を目指す総務省の強い意向が追い風となった。

 総務省は2007年2月に、日本通信が勝ち取ったような透明性の高い方式でMVNOが既存事業者の通信網を利用できるようにする「ガイドライン」を発表。日本通信が難航するドコモとの交渉を大臣裁定に持ち込めたのも、このガイドラインが後ろ盾があったからだ。

 さらに、総務省は今年5月に、既存事業者に対し、利用条件を約款として公開するよう要請。その結果、ドコモと日本通信との間で結ばれた条件も約款として公開された。今後、ドコモの通信網の利用を目指すMVNO事業者は、この約款に沿って、契約を結ぶことができる。

 多種多様な端末が登場する仕組みは、こうだ。日本通信の福田氏は「ドコモの通信方式に対応し、一定の条件をクリアしていれば、どの端末でも日本で利用できる」と明かす。

 ただ、日本の携帯電話市場は、ドコモやKDDIなどの通信事業者がメーカーから端末を買い取り販売する“商慣行”があり、海外メーカーが参入するには、まず通信事業者に採用してもらう必要があった。しかも、通信事業者が販売条件などを牛耳っており、海外メーカーにとっては、参入障壁の高い“鎖国市場”といわれてきた。

 これに対し、日本通信は国内検査機関の検査をパスした海外メーカーの格安端末を中心に提供しているのが特徴だ。

 「われわれは大手事業者と違い、利用者の法人のニーズに合わせ海外の端末を調達しているだけ」

 日本通信の福田氏は、“利用者第一主義”を強調する。

 日本通信では、一般消費者向けサービスへの参入は否定しており、その恩恵は限定的にとどまっている。

 ただ、今後、日本通信のようなベンチャーではなく、海外にネットワークを持ち、商品調達力に優れた大手企業がMVNOとして参入してくるような事態になれば、既存の通信事業者や携帯メーカーにとって大きな脅威となる。

 日本通信の“ケンカ”は、通信事業者が、サービス内容や端末の仕様などを支配する日本独特の「垂直統合型」のビジネスモデルを崩壊させ、鎖国市場に開国を迫る可能性を秘めている。

 ただ、MVNOビジネスが成功するかどうかは、未知数だ。携帯市場は成熟化により、新規契約の獲得は容易ではない。ソフトバンクが米アップルの大ヒット端末「アイフォーン」を国内販売し、ドコモもカナダメーカーの人気機種「ブラックベリー」を投入するなど、競争は激化の一途だ。

 特に、法人向け市場の場合、「サービスの信頼性を重視し、最終的に認知度が高い既存事業者のサービスを選ぶ可能性が高い」(証券系アナリスト)との指摘は多い。

 MVNO同士の競争激化も必至だ。今年に入って参入した企業は11社に上る。野村総合研究所の試算によると、国内のMVNO関連市場は2015年には2兆円規模に達すると予想しているが、事業者の淘(とう)汰(た)は避けられない。

 “栄枯盛衰”の激しい通信業界では、先進的なビジネスモデルを打ち出しながら、その後の競争に敗れた企業は枚挙にいとまはない、日本通信は、業界の風雲児となり、ガリバーを脅かすのか、それとも、露と消えてしまうのか。(黒川信雄)

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