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2008年11月08日(土) 06時13分

名ばかり日本船「違法」横行 遠洋マグロ漁河北新報

 台湾などの外資系漁業会社が日本船籍で操業する遠洋マグロはえ縄船で、航海士や機関長といった海技資格者が乗船していない例が相次いで発覚している。いずれも洋上で事故や事件が発生した際、日本人乗組員が皆無だったり、極端に少なかったりしたことから露呈した。適切な有資格者を乗せないのは船舶職員法(配乗義務)違反に当たるが、法令に違反してでも人件費を抑制しようとする実態が浮かび上がる。(報道部・坂井直人)

 「台湾漁船が炎上した」。10月12日、インドネシア・スマトラ島沖のインド洋上で、塩釜市のマグロはえ縄船「第8漁安丸」が宮城県漁業無線局に通報した。
 火災を起こしたのは、近くで操業していた「玲翰(れいかん)丸」(409トン)。漁安丸への無線連絡で玲翰丸側は「台湾船」と名乗ったが、実は台湾系資本の漁業会社「玲豊漁業」(静岡市)が所有する日本船。2006年、宮城県気仙沼市の気仙沼港を出港し、シンガポールを拠点にメバチマグロなどを追っていた。

 25人の乗組員は全員、漁安丸に救助された。フィリピン人が20人で、中国人が4人。乗組員のうち日本人は漁労長1人だった。
 遠洋マグロ船は法律上、最低でも四級以上の航海士資格を持つ「船長」と五級以上の「一等航海士」らの乗船が義務付けられている。商船などを含む船舶で、フィリピン人、中国人の五級以上の航海士は3月末現在、それぞれ1人だけ。日本の水産学校などへの留学経験者らに限られる。

 外資系とみられるマグロはえ縄船では、これまでも洋上トラブルをきっかけに配乗義務違反が明らかになっている。
 昨年2月にハワイ沖で操業中の船で、ベトナム人船員が中国人船員を刺して死亡させた事件が発生し、船には一等航海士がいなかったことが判明した。シンガポールの港で今年6月に衝突事故を起こした船は、乗組員が中国人とインドネシア人だけで、資格を持つ日本人は1人もいなかったため、国土交通省から指導を受けた。

 業界関係者によると、こうした船は資格を持つ船員OBらが「回航員」として乗り込み、国内から出港。シンガポールなどの海外基地で外国人船員と交代するケースが多いとされる。
 出港時は海事事務所や運輸支局への届け出と合わせ、海員名簿、船員手帳、資格証明書の提出が必要だが、回航員らの書類を提出して審査をすり抜ける。海外基地で乗組員が代わる場合も別な届け出が必要だが、国交省は「提出先は領事館。乗組員の変更や、その届け出があったかどうかは把握していない」(運航労務課)としている。

 関係者によると、台湾系漁業会社が中国人乗組員に支払う給与は、国内の資格を持たない機関長で月15万—20万円。資格を持つ日本人の約半分だ。一般船員は月1万5000円程度で雇うという。
 国交省運航労務課は「洋上での配乗義務違反は事件事故が起きてからの対応にならざるを得ないのが現状だが、日本船である以上、国内法を守って操業してほしい」と話している。

[配乗義務] 船舶職員法は船の所有者に対し、政令の基準に従い、海技免状を持つ海技士を乗船させるよう義務付けている。基準は船の用途、航行区域、大きさ、エンジン出力で異なり、遠洋マグロ船のように海外を基地に操業するケースなどでは、職員数や免状の等級を軽減できる特例もある。違反すると6月以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081108-00000019-khk-soci