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2008年11月07日(金) 02時31分

<オバマ次期大統領>公約の米軍早期撤退…イラク懸念毎日新聞

 【カイロ高橋宗男】駐留米軍と反政府武装勢力の流血が続くイラクの国民は、米大統領選での民主党オバマ上院議員の勝利を複雑な心境で受け止めている。母国の荒廃を招いたブッシュ共和党政権に反発する人々は、オバマ氏が約束した駐留米軍の早期撤退を歓迎する一方、同氏が唱える「イランとの対話」によってイランの影響力が増すことなどを懸念しているためだ。一部からはすでに「オバマ氏の計画は非現実的」との見方も出ている。

 オバマ氏は「大統領就任後16カ月以内、2010年半ばまでに戦闘部隊をイラクから撤退させる」と強調してきた。米イラク両政府による地位協定交渉では11年末までの撤退とされており、オバマ氏の計画は1年半の前倒しだ。

 しかし、前提となる治安部隊の育成には「まだ時間を要する」(米軍幹部)のが現状だ。訓練の主眼はゲリラ戦への対応に置かれ、戦車や装甲車、重火器などの装備も欠いたまま。米軍に依存している兵たん業務の確立には「3〜4年が必要」(同)とされる。陸上部隊も航空支援なしに機能しないのに、空軍学校が再開したのは今年に入ってからだ。

 イラク政府内にも拙速な撤退への危惧(きぐ)がある。ジバリ外相はオバマ氏が「イラク政府と現場の軍幹部との議論が必要」と述べた点を強調し、協議を通じて撤退時期を再考するよう期待感を抱く。

 治安面の不安定要素も残る。米国では軍の増派で治安改善が顕著化したとの評価が多い。だが、実際は国際テロ組織アルカイダに対抗する勢力になったイスラム教スンニ派部族と、シーア派の対米強硬派であるサドル師派を説得したイランの役割が大きい。

 イラク政府によると、先月のイラク民間人死者数はイラク戦争開戦以来最少の238人。ただ、爆発テロが減少する一方で、政府関係者らを狙った暗殺事件が増加しており、来年1月に予定される地方選に向け、政治対立による治安悪化が懸念されている。

 一方、アラブ首長国連邦の民間シンクタンク「湾岸研究所」のアーニ部長は、イラクへの影響力を拡大し始めたイランと米国の対話について「イランが隣国イラクへの発言力をさらに増す可能性がある」と指摘する。

 ◇イラク駐留米軍

 03年3月に始まったイラク戦争の泥沼化でブッシュ大統領は07年、2万人超の増派を実施し駐留規模は16万人を超えた。その後、米兵の戦死者が減り、大統領は「増派の成果」と誇示した。アフガニスタンに部隊を回すため段階的な撤退を進め、現在のイラク駐留部隊は約14万5000人。

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