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2008年11月07日(金) 00時00分

(5)規制及ばぬ「逆輸入」配信読売新聞

 中世から残る赤レンガ造りの街並みが美しい、オランダ・アムステルダム中心街。瀟洒なレストランやホテルが軒を連ねる目抜き通り沿いに、約20人の日本人らが働く会社がある。

 ガラス張りの5階建てビルの一室。ビル入り口は厳重にロックされ、社名はどこにも記されていない。

 「うちは日本のマニアの間では有名な、無修正アダルト動画の配信会社」。日本在住の関係者は、会社の実態をこう明かす。

ポルノ、賭博「合法な国」拠点に

英領マン島にあるサーバー基地。オンラインギャンブルサイトなどのデータが置かれ、警備も厳重だ=中沢直紀撮影

 動画の制作場所は日本で、出演者も日本人だが、性器部分にモザイクが一切かかっておらず、日本で配信すれば、刑法のわいせつ図画販売罪に当たる。ところが、配信元をオランダに移し、「逆輸入」した形にすれば「合法」に化ける。オランダにはポルノ規制がほとんどないからだ。

 同国の法人登記では、日本人がかかわっている会社とはわからない。「配信先がどこであろうと、適用されるのは発信国の法律。警察が私たちを摘発するのは無理だろう」

 宣伝サイトによると、利用料は月25ユーロ(約3150円)。サービス開始の2000年以降、延べ160万人以上が利用したという。

 規制が及ばなくなっているのは、ポルノだけではない。

 「日本シリーズ、優勝するのは巨人か西武か?」「麻生内閣の支持率は?」

 会員数約2000人のオンラインギャンブルサイト「Betluck」。そこでは、プロスポーツのほか、テレビの人気番組の視聴率や国政選挙の結果など、日本のありとあらゆる出来事が「賭け」の対象だ。参加者は電子マネーでポイントを購入。的中すればポイントが増え、電子マネーに換金できる。

 日本では、公営ギャンブル以外の賭博行為は違法だ。それでも堂々と客を募っているのは、このサイトの運営会社が英領マン島にあるからだ。グレート・ブリテン島とアイルランド島の間に浮かぶこの島では、オンラインギャンブルは合法で、世界中のサイトが拠点を置いている。

 Betluckの運営にかかわる東京都内の会社社長は、「サイト作成や更新作業は日本でサポートしているが、あくまで胴元はマン島にいる」として、違法性はないと主張する。

 同様のサイトは、フィリピンやカリブ海の小国など世界中に計約2000あり、市場規模は1兆5000億円と推定される。

 捜査の手が及ぶことはないのか。「日本で賭けに参加することは違法だが、胴元のいる国で合法だと、必要な証拠集めのための協力を求めるのは難しい」。警察幹部は苦々しげに語る。

 規制が厳しい国から緩い国へ。発信拠点は国境を超え、クリック一つで世界とつながる。ポルノや賭博はその一例に過ぎない。しかし、取り締まる側には依然、現実の国境の壁が高く立ちはだかったままだ。(おわり)

 この連載は吉原淳、中沢直紀、田中健一郎、山下昌一が担当しました。

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