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2008年11月06日(木) 00時02分

オバマ氏 言葉の力&リズム感の勝利産経新聞

 「変革が米国に到来した」−。米大統領選で歴史的勝利を収めたバラク・オバマ氏(47)は5日午後(日本時間)、数万人の支持者を前に、そう勝利宣言した。ケニア人留学生の父と白人の母の間に生まれた米国初の黒人大統領。人種の壁を超え、若者や貧困層、富裕層など幅広い人々を魅了したのは、リンカーン、ケネディ元大統領らの再来とも評された数々の名演説にほかならない。わが国の政治家たちは、この強い「言葉の力」から何を感じ取るだろうか。

 「リベラルのアメリカも保守のアメリカもない、あるのはアメリカ合衆国だ」。2004年7月の民主党大会。オバマ氏はこの演説で一躍、大統領候補として注目を集めた。

 さらに、ポスターにも使われた「CHANGE(変革)」をはじめ、「Yes we can(きっと私たちはできる)」「Let us keep that promise−that American promise(米国の約束を実現しよう)」など演説の言葉が、歌になるなどの社会現象も生まれた。

 「人々のための政治を行う、という一貫したメッセージがこめられており、彼の発言には人の心をつかむ力がある」と話すのは、「オバマ語録」の翻訳を担当した翻訳者の中島早苗さん。インドネシアで少年時代を過ごすなど、多文化にまたがる生い立ちに加え、「リズム感のある伝わりやすい言葉が、幅広い支持につながった」。

 一方でオバマ氏は「私は政治的点数稼ぎに自分の人種を使う人間ではない」「この選挙は黒人対白人の戦いではない。過去対未来の戦いだ」とも発言している。

 「オバマ『勝つ話術、勝てる駆け引き』」の著者で、米大統領の演説分析を行う大阪大学外国語学部の西川秀和非常勤講師は「人種間の溝を強調せず、白人票も取り込んだことが勝因」と分析。さらに、「アメリカンドリームの体現者という人物像や、エリート、貧困層ともにウケの良い経歴に加え、パフォーマンス能力も非常に高い」と指摘する。

 西川さんによれば、オバマ氏の演説はほとんどが即興で、「ささやくように話したかと思えば大きな声を出す。身のこなしは、俳優出身のレーガン元大統領以上だった。オバマ氏にとっては、実際に演説を聞いてもらうのが支持を増やす一番の方法だったはずだ」。

 米国のみならず、アジアやヨーロッパでも熱狂的な人気を誇るオバマ氏だが、外交政策はどう変わるのか。オバマ氏は「共和党のマケイン上院議員の主張は9割がブッシュ大統領と同じだ。『ブッシュ政権3期目』は認められない」と、その違いを訴えているが、東京大学法学部の久保文明教授(米政治)は「対アジア政策を遂行するためには、日本との同盟関係が友好な柱という考えは持っている。民主党が重視する輸出入についても主な敵は中国という意識があるのではないか」。

 一方、対テロ政策については「テロリストがどこに存在しようと、一方的に彼らを攻撃する権利を、私たちは常に持っておかなければならない」と強硬姿勢を示すものの、北朝鮮については「イデオロギーと幻想のみで動いている国だ」と批判するにとどまっている。久保教授は「圧力をかけるというより交渉路線で取り組むのではないか」とみている。

 「完璧(かんぺき)な大統領にはなれないが、国民に正直であることを約束する」。大統領選を直前に控えた10月29日、オバマ氏はテレビ番組で国民に向かって、そう“最後のお願い”を訴えた。

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