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2008年11月06日(木) 00時08分

続く脳内出血の妊婦受け入れ拒否 医療機関の連携急務産経新聞

 東京都で9月下旬、30代前半の妊婦が脳内出血となったものの、杏林大病院(三鷹市)など少なくとも6つの病院に受け入れを断られた末、意識不明に陥っていることが分かった。東京では10月上旬にも、やはり脳内出血になった妊婦(36)が都立墨東病院(墨田区)など8病院に搬送を断られた末に死亡したばかり。2つの事例からは、脳内出血という症状の特異性や、医療機関同士のコミュニケーション不足が、共通する問題点として浮かび上がっており、早急な対策が求められている。

 ■コミュニケーション

 杏林大医学部の岩下光利教授は5日会見し、「脳内出血とは聞いていない。緊急性は伝わらなかった」と説明した。一方、妊婦の受け入れを要請した飯野病院(調布市)は「激しい頭痛を訴えているのでとにかく診てほしい」と切迫性は伝えたし、FAXもした。

 双方が食い違う説明をしているが、都立墨東病院のケースでも、搬送要請元と、受け入れ先の主張は対立していた。

 都内の大学病院で働くある産科勤務医は「医師同士のやりとりについても改善すべきところがある」と指摘。「拠点病院と地域病院が、日常的に顔の見える関係を作っておく必要があるのではないか」という。

 しかし、飯野病院がある東京・多摩地域は、人口400万人と東京都の3分の1が住むにもかかわらず、高度な医療設備を持つ総合周産期母子医療センターは杏林大病院しかなく緊急病床は日常的に満杯。都内にセンターが9施設あることを考えると、医療体制の偏りが受け入れ拒否の背景にあった可能性がある。

 ■産科と救急の連携

 「現在のセンターでは、脳内出血や心筋梗塞(こうそく)などの疾患に対応できない」。杏林大の岩下教授はそう釈明している。杏林大病院、墨東病院が関係した2つのケースは、ともに妊婦が脳内出血を起こしていた。

 産科医の専門外の疾患だ。石原慎太郎都知事は5日、「妊婦が心臓病を持っていたら心臓の専門家がいる。場合によっては脳外科、麻酔科も」と、他の専門医との連携の必要性を指摘した。舛添要一厚労相も「救急医と産科医の連携が課題」としているが、まだ具体的な“処方箋(せん)”はみえない。

 ■脳内出血の特異さ

 産科医の間では妊婦の脳内出血は特異な例と受け止められている。杏林大病院は5日の会見で、「十分な重症判断ができなかった」と、受け入れを断った一因を説明した。

 墨東病院が関係した事例とともに医師らが脳内出血を疑わなかったことが、受け入れ拒否につながった可能性があるが、昭和大の岡井崇教授は「ベテラン医師でなければ別の症状を疑うだろう」と現場の状況を話す。

 ただ、妊婦の脳内出血に警告を発してきた医師らもいる。

 国立循環器病センターの池田智明医師らは、全国1107医療機関に平成18年に発生した妊婦の脳血管障害を調べたところ、184人が該当。うち39人の脳内出血があり、7人が死亡していたとの報告書をまとめた。そのなかで、池田医師らは「脳血管障害を念頭においた管理をする必要がある」と指摘していた。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081106-00000502-san-soci