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2008年11月06日(木) 21時03分

重い課題 バマノミクスと「パラダイム変化」産経新聞

 「第2次大戦後、想像力、軍事力、経済と金融の力…米国のパワーは揺るぎないものだった。だが『米国の世紀』は終わった」

 10月、米保守系シンクタンク、「アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート」(AEI)で開かれたシンポジウム。カーネギーメロン大のアラン・メルツァー教授が披瀝(ひれき)した見解は参加者を驚かせた。

 金融危機は今や、世界同時不況をももたらすかもしれない。その危機の源となった米国は自国の対処で手いっぱいで、他国のために資金を出す余裕などない。自国通貨の急落に悩むアイスランドが、最初に緊急融資を打診したのもロシアだった。欧州の戦後復興や、1980年代の中南米の通貨危機などで発揮された米国の主導権そのものが、危機に直面している。

 レーガン政権の経済政策諮問会議に参画したメルツァー教授はこう語る。「自国の問題を解決できない国家が、世界のリーダーとして信頼を得ることなど不可能だ」と。

 オバマ次期大統領の最初にして最大の課題は、世界恐慌の阻止である。オバマ氏を次期大統領へと導いた今日の状況は、32年の米大統領選との共通点が少なくない。「大恐慌によって、20年代から続いた宗教や文化論争が選挙の争点から消え、経済が最大の争点になった」と、外交問題評議会のピーター・ベイナート上級研究員は指摘する。

 ニューディール政策を掲げ当選した民主党のルーズベルト大統領は、大型公共投資など政府の積極介入によって米国を回復させた。オバマ氏の選挙綱領にも、1500億ドルの代替エネルギー開発投資や、600億ドルのインフラ投資による雇用創出などニューディールを意識した公約が並ぶ。

 このためベイナート氏は、レーガン政権からブッシュ政権まで脈々と受け継がれ、減税と財政支出の削減、規制緩和によって経済成長を促す「レーガノミクス」の流れに、「パラダイム変化」が起きるだろうとみる。米連邦準備制度理事会(FRB)の元金融政策局長、ビンセント・ラインハート氏は、金融危機の深刻化ですでに「“振り子”は振れた」との認識だ。

 オバマ氏は公共投資以外にも、中・低所得者向け減税や国民皆保険の実現など弱者に手厚い政策を掲げ、ウォール街の金融規制の強化も主張している。その狙いは、ルーズベルト政権を源流に戦後主流となった「大きな政府」、つまり「前レーガン時代への復帰」(米紙ウォールストリート・ジャーナル社説)にあるのかもしれない。

 「オバマノミクス」とも称されるオバマ氏の経済政策には、危うさもある。

 2008年度の米国の財政赤字は、イラク戦費やブッシュ政権の景気対策により、4548億ドルと過去最大に達した。今後、金融機関への公的資金注入に加え、自動車産業の救済や、追加景気対策で大盤振る舞いを続ければ、財政赤字は膨張する。世界の基軸通貨ドルの不信を招き、長期金利が急伸し米国から資金が逃避する恐れもある。

 ブルッキングス研究所のピエトロ・ニボラ上級研究員は「オバマ氏は選挙戦を通じ、金融危機解決の明確な処方箋(せん)を示したわけではない」と語る。

 米大統領選の行方をにらみつつ、欧州では英国、フランスが主導する形で、国際通貨基金(IMF)の役割の見直しや、金融機関とヘッジファンドに対する国際的な規制の整備をめぐる議論が進んでいる。IMFはウクライナ、アイスランド、ハンガリーなどへの緊急融資に合意した。だが、ブラジルなどが危機に陥れば「今の資金力ではとても足りない」(メリーランド大のカーメン・ラインハート教授)は自明だ。

 米国経済の立て直しと、国際金融体制の確立−。金融危機で揺らぐ米国のリーダーシップを取り戻すという重い課題が、オバマ次期大統領を待ち受けている。(ワシントン 渡辺浩生)

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