記事登録
2008年11月05日(水) 00時00分

(3)ゲームで資金洗浄可能読売新聞

 中国からハッカーの攻撃を受け、顧客の個人情報が盗まれた音響機器販売会社「サウンドハウス」(千葉県成田市)。流出したクレジットカード情報の約7割は、オンラインゲームの参加費やアイテム購入に使われていた。

 ハッカーの目的はもちろんゲームを楽しむことではない。中国にいながら「安全に」換金する方法が、ゲームだからだ。

 <指定された時間に薄暗い倉庫内で待っていると、赤毛の女が近づいてきた。二言三言、言葉を交わし、剣と盾を手渡すと、深く礼をして立ち去っていく>

 これはゲームの1シーン。RMT(リアル・マネー・トレード)でアイテム売買が成立した瞬間だ。

 RMTはオンラインゲームで使う武器などのアイテムを専門サイトを通じて売買する行為。ゲームでは、敵を倒せば次第にキャラクターは成長し、様々なアイテムを手に入れていくが、RMTを使えば早く、簡単に強くすることができる。ネット上に無数にあるRMTサイトには10万円超のアイテムが並ぶことも珍しくなく、市場規模は年間150億円とも言われる。

 支払いは、コンビニエンスストアでも買える電子マネー「ウェブマネー」で済ませる。紙に書かれた16ケタの文字・数字を相手にメールなどで伝えて「送金」すれば、後はRMT業者のメールでの指示に従ってゲーム内でアイテムの受け渡しをするだけ。すべてネット上で済む手軽さと匿名性。それだけに犯罪の温床になりやすく、マネーロンダリング(資金洗浄)さえ可能だ。

 2005年春。福岡市内のコンビニの防犯カメラに、中国人留学生(29)が何時間も店の隅に立ち、ロール紙がなくなるまで端末を操作する姿が映っていた。留学生は端末で大量のウェブマネーを購入していたのだ。その後、香川県警に電子計算機損壊等業務妨害容疑で逮捕されたこの留学生は、日本に中継サーバーを違法に設置して中国にいる仲間5000人以上をオンラインゲームに参加させ、稼いだアイテムをRMT業者に売っていた。

 5000万円以上の売上金が中国に送られたとみられるが、「その大半は特定できなかった」と捜査員は悔しがる。ウェブマネーは、マネロン防止のため設けられた犯罪収益移転防止法の対象外で、監視できないからだ。

 中央政策研究所(東京都千代田区)が国内の主なRMT業者に調査したところ、アイテムの売り主の9割は中国人。だが、手にした金の行方は分からない。

 日本クレジット産業協会によると、07年の不正使用被害額は92億円に上る。偽造カードで買い物をして換金するような、昔ながらの手口は半分に満たない。

 「ハッキングしてカード情報を抜き取り、RMTで換金し電子マネーで送金。原資ゼロで金を稼ぎ、足がつきにくい。闇のビジネスモデルが完成しつつある」と指摘するのはサイバーディフェンス研究所の飯沼勇生所長。電子マネーとRMTの登場は、新たな悪の循環も生んでいる。

◆連載「ネット社会」へのご意見・ご感想はこちらへ

http://www.yomiuri.co.jp/national/net/net081105.htm