記事登録
2008年11月05日(水) 00時00分

「500万円一括で返せ」読売新聞


差し押さえを通告するSFCGからの書面。男性は「年末の資金繰りもぎりぎりだ」と話す
貸しはがし 泣く中小業者

 欧米の金融不安の影響で、国内の中小企業が「貸しはがし」に遭っていた。

 9月下旬。東京都内で日用品製造業を営む男性のもとに、商工ローン大手「SFCG」(旧商工ファンド)から一通の郵便物が送られてきた。

 「法的手続きに着手しました」。7月に借りた500万円が全額返済されないとして差し押さえ手続きに入ったという通知だった。

 男性の会社は社員10人ほど。約10年前に創業して以来、使い勝手のいい日用品の製造に徹し、昨年は年商数千万円をあげた。年10%と割高な融資をSFCGから受けたのは、社運をかけた新商品の開発資金が急に必要になったからだ。

元金返済2、3年後のはずが…

 融資の契約書には「9月5日に元金を一括で支払う」という文言があった。

 しかし、担当者は契約の際、「元金の返済は2、3年後に考えましょう」と約束してくれた——と男性は主張する。「担当者からは『3か月に1度、金利分と保証料の計22万8000円だけ払ってもらえば結構』と言われたんです」

 その1回目の支払日さえ来ない8月下旬、SFCGは突然、はがきで一括返済を求めてきた。抗議すると、担当者は「本部の方針」と言うばかり。取引先の問屋が払ってくれる予定だった商品の代金約40万円も差し押さえられた。

 男性の社長としての報酬は手取りで月10万円。500万円を一度に返せる蓄えなどない。男性は社員たちに、貸しはがしのことを伝えられずにいる。

 SFCGは10月末、同様の通知を受けた75の融資先から「一括返済を求められ、精神的苦痛を受けた」として損害賠償請求訴訟を起こされている。同社は「返済が遅延するなどした融資先に、適法に回収を図っているだけ」とする一方、「資金調達先の外資系金融機関が資金の蛇口を閉じつつあるため、貸し付けを増やせない」と説明する。

 商工ローン問題に詳しい新里宏二弁護士は「融資の回収を確実にしようと、商工ローンが契約上、2〜3か月で元金を返済させて借り換えさせるケースが増えている。今回も資金の早期回収を優先したのではないか」と指摘する。

 都内の不動産管理会社の役員を務める内田学さん(33)も、金融不安の影響で、9億円を超える借入金の一括返済を求められている。

 内田さんの会社は10年前、銀行から融資を受けてテナントビルを建設し、その賃料で月約600万円の返済を続けてきた。

 ところが初めに借りた銀行が破綻(はたん)したのをきっかけに、債権が米大手証券リーマン・ブラザーズ(9月15日に破綻)傘下の金融会社に転売され、この金融会社が全額返済を求めてきた。

 内田さんの会社は、一括返済の義務がないことの確認を求める訴訟を起こしたが、内田さんは「我が社は家族だけでやっていて、一括返済などできるわけはない」と不安を隠さない。

 金融会社の代理人の弁護士は「係争中なのでコメントできない」としている。

 都内では大田、品川両区が4日から、中小零細企業を支援する緊急融資の受け付けを始めた。大田区で95社、品川区では87社から相談が寄せられ、同区の相談者の1人は「政府が発表した景気対策では、効果が実感できないので、ここに来ました」と話していた。

http://www.yomiuri.co.jp/national/kishimu/kishimu081105.htm