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2008年11月05日(水) 13時50分

【法廷から】大家さん、被害者… 周囲の“温情”に感謝する傷害事件の被告2人産経新聞

 2人の韓国人留学生が“同胞”を相手に傷害事件を起こした当日は、皮肉にも、母国では旧盆だった。韓国では、国内外に散らばって暮らす親戚(しんせき)が一堂に集い、先祖に感謝の気持ちを表す、正月と並ぶ一大イベントだ。そんな日に、故郷に帰ることもなく、異国で愚かな事件を起こした2人は、公判中、終始謝罪の言葉を繰り返していた。

 歩道上で、口論になった男性の顔面を数回殴るなどの暴行を加え、ケガを負わせたとして、傷害の罪に問われた2人の男性被告の初公判が4日、東京地裁で開かれた。

 高校生と思われる女子生徒たちが、団体で裁判の傍聴に来ていたため、2人の被告が法定内に足を踏み入れたときには、すでに満員となっていた。2人は、その人数の多さに驚いた様子で、傍聴席をきょろきょろ見渡していた。韓国で徴兵を終えているためか共に体格ががっしりとしていた2人は、弁護人の姿を目にすると、深々と頭を下げ、被告人席についた。

 検察側の冒頭陳述などによると、2人は2年にわたる徴兵期間を終えた後、日本にやってきたという。日本語学校に通った後、1人(以下、被告A)は無職となり、もう1人(以下、被告B)は調理師学校に通っていた。

 9月14日、東京都新宿区の居酒屋で酒を飲み、地下にあった店舗から、階段を上って外に出ようとしたところ、同じ韓国人である被害者の男性が、後ろから被告たちを追い抜こうとしたため、被害者と被告Bの肩がぶつかったという。そこから口論が始まり、居酒屋前の歩道上で、被告2人と被害者の殴り合いに発展。路上に倒れた被害者に、被告Aが馬乗りで殴りかかり、被害者は、鼻の骨を折る全治2週間のケガを負った。2人の被告は、日本語で「間違いないです」と述べ、全面的に罪を認めた。

 被告人質問では、けんかの原因に質問が集中した。

 弁護人「自分のしたことを、どう思ってる?」

 被告A「言葉だけでも解決できたのに、殴ってしまったことについて、本当に申し訳なく思っています」

 弁護人「肩がぶつかったり、にらんだなどの些細(ささい)なことがけんかの原因?」

 被告A「はい」

 弁護人「それでけんかになるなんて、考えが浅はかなようだけど」

 被告A「はい…」

 弁護人「大家さんは4回、婚約者は2回、面会に来てたね?」

 被告A「はい。本当に申し訳なく思っています」

 話が大家と婚約者の話に及ぶと、被告Aは言葉に詰まるようになった。多くの韓国人が集まる寮を運営しているというこの大家は、今後も被告Aが同じ部屋で暮らすことを許してくれたばかりか、日本での“親代わり”を買って出ているという。また、婚約者は、韓国に住んでいるにもかかわらず、約1カ月の間に、2回も面会に訪れていた。

 被告Aの後、被告Bへの質問が始まった。

 弁護人「最初に手を出したのは?」

 被告B「よくわかりませんが、(記憶では)私が先にあごを殴られて、私もあごをやり返しました」

 検察官「なぜ殴り合いになったのか?」

 被告B「これと言った理由はないが、言葉で解決できたはずなのに、怒りが爆発してしまいました」

 検察官「被害者に対する思いは?」

 被告B「申し訳ないと思いますし、(2人に刑事罰を与えないよう)裁判所に嘆願書を書いてくださったことに、感謝しています」

 そう言いながら、被告Bは深々と頭を下げた。傍聴席から見えた彼の顔は紅潮しており、被害者の温かい心に触れて、必死に涙をこらえている様子だった。

 2人と被害者の間では、すでに示談が成立し、被害者が被害届を取り下げているという。そのため判決は、懲役刑ではなく、それぞれ30万円の罰金を支払うことにとどまった。勾留(こうりゅう)期間を、1日1万円として計算するため、1カ月以上拘束されている2人は、すでに罰金を支払ったと見なされ、即日釈放されることとなった。

 2人は来春、留学生ビザの期限が切れるという。公判の最後に、2人は「お互いが楽しく過ごさなくてはならないとき(旧盆)に、暴力を振るって申し訳ない」と述べた。帰国後も、日本で犯した罪を忘れることなく、誠実に生きていってほしい。(徐暎喜)

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