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2008年11月05日(水) 22時18分

融和訴え“人種の壁”越える産経新聞

 「これは歴史的な選挙であり、アフリカ系米人には特別な意味があった。今夜の栄冠は彼らのものだ」。敗北した共和党のマケイン上院議員は4日夜、アリゾナ州フェニックスでの集会で、黒人初の米大統領誕生の意義を、こう訴えた。

 アフリカ西部から新大陸への奴隷貿易にさかのぼる黒人の地位や処遇は、それ自体が歴代の米大統領選で焦点となってきた。奴隷制反対を掲げた1860年のリンカーンの初当選、人種差別撤廃を求める公民権運動が盛り上がった1964年の大統領選などは、米社会を歴史の桎梏から解き放つ過程だった。民主党のオバマ上院議員の当選は奴隷解放宣言、公民権法制定に続いて、米国史に節目を刻んだといっていい。

 米紙ワシントン・ポストで最初の黒人論説委員を務めたロジャー・ウィルキンス氏(76)が、「私の目の黒いうちに、黒人大統領が誕生するとは夢想だにしなかった」と語るほどに、「人種の壁」は厚かった。

 その米社会でホワイトハウスを目指した黒人政治家は過去にもいる。80年代に公民権活動家のジェシー・ジャクソン師、70年代には女性下院議員だったシャリー・チゾム氏がいずれも民主党の候補指名を求めて敗れ去っている。彼らとオバマ氏とは何が違ったのか。

 ジャクソン師らは「ブラック・ナショナリズム」と呼ばれる黒人の民族意識を掲げて白人社会に挑み、撃退された。対するオバマ氏は「黒人の米国も白人の米国もない。米国はただひとつ」と融和を訴えて壁を巧みに通り抜けた感がある。

 保守系の黒人論客シェルビー・スティール氏は「過去40年かけて米国がモラルを向上させた証左がオバマ氏だ」(ウォールストリート・ジャーナル紙)とし、米社会もまたひとつ壁を乗り越えたとの見方を示す。

 壁突破の主たる原動力となったのは、長引くイラク戦争やアフガニスタンでのテロとの戦いによる米社会の閉塞感と、金融危機が引き起こした不安感だろう。有権者の多くが「米国は誤った軌道上にある」との認識を持ち、オバマ氏が提示した変革に乗った。「(主要政党)初の黒人大統領候補」という象徴性は変革を求める空気に良く合った。

 氏の前途にはしかし、経済をマイナス成長に陥れた金融危機への対策や、出口の見えないテロとの戦いの局面転換といった、待ったなしの課題が待ち受ける。

 オバマ氏の理念の底流には、「市場主義」と「強大な軍事力」を両輪として「強い米国」を求め続けた「レーガン革命」の伝統とは相反するものがにじむ。「グローバリズム」よりも「公平な貿易取引」、強い軍事力に支えられた「一国主義」よりも「対話外交」といった考え方である。

 氏が体現する変革への希求が、80年代からほぼ一貫して続いた米通商、外交政策の指針を大きく転換させるのか、そうした流れと現実的な折り合いを付けるのかは、まだ見えて来ない。

     ◇

 初の米黒人大統領となるオバマ上院議員は国内融和を図りつつ、世界経済を直撃した金融危機をどう処理し、新たな外交・安保戦略をどう構築してゆくのか。3回にわたり検証する。(ワシントン 山本秀也)

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