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2008年11月04日(火) 16時40分

金融パニックの中、資金87倍、大儲けしたヘッジファンドが存在MONEYzine

■収まりそうにない金融パニック

 資本主義の大ボスを任じてきたアメリカで、資本不足が顕在化するという矛盾が露呈した。そしてニューヨークをはじめ世界各地で株価の乱高下が続く。ウォールストリートの金融機関を救済する名目でブッシュ政権は7000億ドル(約70兆円)の公的資金注入を決定したが、その財源は赤字国債発行でまかなうしかない。すでにアメリカの国庫は底を突いており、無い袖は振れないというのが実態である。

 昨年11月の時点で、アメリカの会計検査院では「財政赤字が54兆ドルに達しており、あらゆる財政支出を削減することがなければ国家破綻は避けられない」との報告書をブッシュ大統領に提出したが、ホワイトハウスはまったく聞く耳を持たなかった。こうなると自前の資金で自国の経済危機を救出することはほとんど不可能という話になる。

 そのためアメリカ政府は中国、日本、ロシアという3大ドル保有国をはじめ、オイルマネーを溜め込んでいる産油国に対し協力要請を繰り返している。あるいは国際的な支援体制に期待するという。このような体たらくでは金融パニックは収まりそうにない。おそらく、今後もアメリカ発の激震の第2波、あるいは第3波が次々と世界を飲み込むことになるだろう。

■今起こっている金融危機は「まさに底なし沼」

 10月末に、ヘッジファンドの期末決算報告が相次いだが、3560億ドルと見積もられるサブプライムローン関連の保証金の支払いができず、経営破綻するファンドが続出した。米財務省やホワイトハウスの顧問を務めるルービニ教授曰く「年末までにさらに500以上のヘッジファンドが破綻する」。すでに破綻した証券大手のベア・スターンズもリーマン・ブラザーズもヘッジファンド経由で天文学的なデリバティブ取引を重ねていた。

「悪魔の棲む世界」とまで揶揄されるデリバティブの全貌はいまだ水面下に隠されたままだ。国際決済銀行(BIS)の推計では516兆ドル。しかし、別の推計ではすでに750兆ドルにまで膨らんでいるとの見方もある。まさに底なし沼のようなもの。あるいは「ブレーキの壊れた金融新幹線」といえるだろう。

 現在のアメリカの国家予算が3兆ドル。GDPが15兆ドル。はたまた全世界の株式や国債の発行総額が約100兆ドルであることからすれば、アメリカという国家が50回破綻したとしてもまだ救済できないほどの仮想マネーがデリバティブ取引という金融工学の粋を集めた金融商品として世界中にばら撒かれているわけだ。

 思い出されるのは、1998年の金融危機である。

■ばたばたと銀行が傾くという異常事態

 当時引き金となったのは、ノーベル経済学賞の受賞者2人を擁する天才ヘッジファンド集団として圧倒的な力を誇示していたLTCMの破綻だった。わずか50億ドルの焦げ付きが原因でウォールストリート中がパニックに陥った。今回はその10万倍以上の破壊力を秘めた巨大地震に他ならず、これからが大津波の本番となるに違いない。

 過去17年にわたり全戦全勝の記録を持ち「ヘッジファンド業界のプリンス」と呼ばれるアンドリュー・ウェイス氏も「史上最大の危機だ」と述べ、次のように今後の展開を予想している。すなわち「今後数年以内に、モルガン・スタンレーが倒産する可能性は45%、またシティー・グループが消滅する可能性は21%」。

 要は、アメリカ政府が各国に要請して進めている7000億ドルの救済計画では資本が圧倒的に足りないというわけだ。11月15日にはワシントンで、世界各国の首脳を集めた緊急経済対策会議が開かれる予定だが、頼みの綱である中国やロシアも自国の経済を安定化させることが先決とばかり対米支援には後ろ向きである。ユーロランドと呼ばれるヨーロッパ各国も株価急落の影響で、大手の銀行が次々と国家管理化に入るような状態が続く。金融王国として、世界のマネーを集めてきたスイスでさえも、ばたばたと銀行が傾くという異常事態に陥っている。

 とてもではないが、「沈み行くタイタニック号」と化したアメリカを救い上げることのできる力を持つ国は見当たらない。日本としてもこれまで注入した22兆円がせいぜいというところであろう。となれば、資本主義大国アメリカの水没は益々避けられそうにない。世界的に不況や恐慌に対する不安感が広がっている。

■投資家に歓喜の挨拶文を発送したファンド社長

 とはいえ、この金融パニックの先行きを冷静に見通し、史上空前の利益を稼ぎ出したヘッジファンドも存在する。昨年の夏以降サブプライムローン危機がいずれは大爆発すると予想し、住宅バブルの逆張りで大きな利益を確保したヘッジファンドの代表といえるのが、レイド・キャピタル・マネジメントのアンドリュー・レイド氏である。

 なんと、この1年間で顧客から運用をまかされた資金を87倍に増やすことに成功。彼はアメリカの住宅ローン市場が危機的状況にまでバブル化していること見抜き、不動産市場の下落に賭けたのである。その結果、巨額の利益を確定した彼は自らが運用してきた8000万ドルというファンドを店仕舞いすることを決めた。

 投資家にファンド手仕舞いの挨拶文を発送し、その中で「皆さん方には十分配当と利益を提供させていただいた。おそらく皆さん笑いが止まらないことでしょう。どうぞ二日酔いにご注意ください。私は、皆さん方とともに生涯使い切れないだろう金額のお金を手にすることができました。もう住み慣れたマネーゲームの世界からは足を洗い、明日からは普通の生活に戻りたいと思います」。

 この顧客宛の手紙を書いたレイド社長は今年37歳になったばかり。今後は使い切れないほどの財産をどう有効に活用するか思案するため、しばらく南の島でのんびり暮らすという。実は、こうしたレイド社長のように大勢とは違う道を歩み、今回の金融大パニックを見事すり抜けたヘッジファンドの経営者たちが何人もいるのである。

■巨万の富を手にしたファンドマネージャーに共通する点

 現在1万社をこえるヘッジファンド業界ではあるが、その大多数は横並びの投資戦略が災いし、今回ばたばたと倒産、討ち死にしてしまった。半分は消滅すると見られる。しかし、絶対利益の確保を売り物にしてきたヘッジファンドの業界ではどっこいしたたかに巨万の富を手にしたファンドマネージャーも見受けられる。

 彼らは「公的資金で救ってくれ」とか泣き言を一切言わない。それどころか自らの才覚で大成功を収めたことすら表には明らかにしようとしない。まさに徹底した情報管理を旨としているようだ。

 イギリスの誇る女王陛下直属の金融投資顧問団ですら今回は大きな損失を計上したといわれる。日本の皇室では想像もつかないことではあるが、イギリス王室は長年にわたり女王陛下の財産を管理運用する専門の投資家集団を抱えている。七つの海を制覇した大英帝国の経験と情報ネットワークを駆使し、これまでイギリス王室は世界の大富豪としての地位も確保していた。

 しかし、今回のウォールストリート発の金融大津波には効果的な防衛策を講じることができず、結果的に65億円を越える損失を出してしまった。今後もその損失額は増える可能性もあるという。

 女王陛下の直属の部隊ですら今回は大火傷をおってしまったわけだ。となると、レイド社長のような若いけれども独自の嗅覚で危機を先読みし、大勢の流れに抗い独自の資金運用でマネーゲームを勝ち抜いた才能は見事というしかないだろう。

■巨大金融資本は絶滅の危機に

 いずれにせよ、現実は冷徹であり、ウォールストリートの巨大な投資銀行、証券会社、保険会社などが次々と破綻し消滅するか業態変更を余儀なくされている。これからは、巨大金融機関の看板だけでは生きていけない時代になるだろう。巨大ガリバーとして生き残りの道を模索しているゴールドマン・サックスでさえ今回の公的資金注入を受け大規模なリストラに着手したばかりである。それどころか、ゴールドマンは生き残るためシティ・グループとの合併の可能性を探っているという。

 言い換えれば、これまでウォールストリートでわが世の春を謳歌してきた巨大金融資本は絶滅の危機に瀕していると言っても過言ではない。本来金融機関が果たすべき役割を放棄し、マネーゲームの僕となってしまった銀行の未来は恐竜と同じといえそうだ。

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(浜田 和幸)

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