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2008年11月03日(月) 00時00分

自動車業界 人員削減加速読売新聞


派遣会社からは「ご自分なりに仕事を探してみてください」という文書も届いていた(栃木県上三川町で)=加納昭彦撮影
通知書1枚「派遣」クビ

 自動車業界では、「人員削減」の荒波が、派遣社員たちを直撃していた。

 10月10日の朝。栃木県上三川町にある日産自動車栃木工場に出勤した派遣社員の男性(44)は、自分の出勤簿に、「最重要です!」と赤字で印刷された通知書が挟んであるのを見つけた。

勤務2年「成人式の娘に晴れ着」夢かなわず

 「人員を減らさざるを得ないという経営判断に至りました」——。9月以降の自動車の減産を受け、派遣契約を解除するという通知だった。3か月ごとの契約更新を重ねて、もう2年以上。日産栃木工場の派遣社員としては最古参で、まじめな仕事ぶりが評価され、同僚の正社員から「リストラがあっても、あなたなら首を切られない」とも言われていた。

 それが通知から3週間がすぎても、次の職場が決まらない。契約解除が今月17日に迫る中、不安を紛らわそうと、夜は酒が手放せなくなった。派遣会社の寮の6畳間には、空になった焼酎のペットボトルが何本も転がる。この寮も契約解除と同時に退去を求められるため、住むあてもない。

 政府の追加景気対策は60万人の雇用を下支えするとして「非正規労働者の雇用安定対策」などを掲げているが、男性には、別世界の話としか思えない。

 これまでは月13万円の手取りの中から、6年前に離婚した妻と娘に月5万円を送ることができていた。

 その娘は来年、20歳になる。年明けの成人式に晴れ着を贈るのが夢だったが、それもかなわなくなった。

 「娘に合わせる顔がない」。男性は焼酎を飲みながら、つぶやいた。

 自動車業界では、北米での需要落ち込みを受け、日産自動車が派遣社員2000人のうち4割にあたる栃木工場と九州工場の780人の削減を発表。トヨタ自動車九州も6〜8月、800人の派遣社員との契約を一時打ち切った。そして下請け会社にも派遣削減の波は広がっていた。

 福岡県苅田町。自動車メーカーの下請け工場で働く男性(44)も10月半ば、派遣会社の担当者から突然、「工場から今月で解約したいと申し出があった」と告げられた。

 8月にテレビでトヨタ自動車の大幅減産のニュースが流れた時、派遣仲間と「景気が悪くなると真っ先に切られるのは俺たちだ」と話し合っていた。それでも、4月からの1年契約が半年も残っている時点で、突然、解約を通知されるとは思ってもいなかった。

 幸い派遣会社からの紹介で今月から電機メーカーで働けることになった。正社員を募集している求人情報誌は「上限40歳」ばかり。「正社員じゃなくても仕方ない」と思うことにした。同じ工場に100人ほどいた派遣仲間たちが今、どうなっているのかはわからないという。

http://www.yomiuri.co.jp/national/kishimu/kishimu081103_01.htm