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2008年11月03日(月) 07時08分

学校選択制どうなる 23区アンケート東京新聞

 東京都江東区が縮小を決め、前橋市が廃止する公立小中学校の学校選択制をめぐり、東京新聞は導入が進む東京二十三区の区教育委員会にアンケートをした。有意義だと強調する区もあれば、地域との関係希薄化や児童生徒数の偏りなどの問題に頭を悩ませている区も浮かんだ。文部科学省は「メリットとデメリットを確認し、検証する時期に入った」といい、各自治体での検証作業が活発化しそうだ。 (小林由比、中沢佳子)

 「学力レベルが高く、先生たちにも自信が見られた。もし、中学受験を希望することになっても、対応できると思った」。江東区で小学四年と二年の男児を電車で学区外に通わせる女性(45)は選択制の恩恵を認める。駅まで約十五分歩き、地下鉄に乗る。「PTA役員の仕事などで通うのに親も大変」だが、児童の指導方法や保護者への情報提供の仕方など学校に満足している。

 しかし、江東区は来年度から選択制を限定的な内容に見直す。女性は「制度が変われば、うちの辺りからは通えなくなる。通わせたかったのに、という不満も出るはず」と推測する。

 江東区の制度導入は二〇〇二年。全学年が選択制下で入学し終えたため、昨年から制度の在り方を検証してきた。その結果、来年度からは指定校への入学を原則とし、小学校は徒歩で通える範囲に限るほか、中学校でも希望校の抽選に漏れた場合は指定校への入学とする−など制度の縮小を決めた。重視したのは「地域と学校や子供たちとのつながりが薄れる」という町会などの声だ。

 文科省は中央教育審議会に作業部会を設け、制度の検証を始めている。今後、江東区や前橋市などからも報告を求める見通しだ。ただ、現段階では、二十三区内でほかに具体的な制度見直しの動きはない。

 大都市部で最初に制度を導入した品川区は「選択制自体が目的ではない。総合的に教育改革を進めた結果、学校が変わり、児童生徒の学力も向上した」と意義を強調。入学者が少ない学校を支援するなど同区の姿勢について、文科省は「選ばれなかった学校への支援をどうするか考えた上で実施している」と評価する。

 また、小中学校で制度を運用している荒川区は「保護者アンケートでは約七割が賛成」と制度への多くの支持を例示する。

 半面「学区外の保護者から学校や地域運営への協力が得られにくい」(港区)、「通学時の安全確保がしにくい」(葛飾区)、「うわさや風評に左右され、学校選択ができることで逆に悩んでしまうケースがある」(目黒区)など課題を指摘する区も。「教育内容で選ぶ」という制度の趣旨が徹底されていない側面もみられる。

 さらに「年度により在籍数が変わり、学校運営が不安定になる」(文京区)など学校運営上の悩みを挙げる区もあった。

 墨田区は「導入目的が達成されているかを探る」として保護者らに行ったアンケートを分析するほか、江戸川区は「まずは検証を進めていく」としており、制度の功罪を見極めようとする動きが出ている。

■問題あれば工夫を

 政策研究大学院大学客員教授(教育政策)の戸田忠雄氏の話 学ぶ権利を保障する意味で学校選択制は良いこと。児童生徒や親の立場で考えるべきで、反対を唱える人は行政の立場で考えているのではないか。

 人数の偏りなど問題があれば、選択範囲を制限するなどやり方を工夫すればいい。江東区も部分修正であって選択制に変わりはない。公立学校の学力格差や地域との関係の薄れを反対の理由とする考えは、私学の存在を無視しており成り立たない。

■出直した方がいい

 教育評論家の尾木直樹氏の話 学校選択制は教育論でなく規制緩和論から始まったことが問題。規制を緩和すれば良いことがあるとの幻想にとらわれて広がったが、子供にとっても地域にとっても出直した方がいい。

 全域または一定のエリア内で自由に選べる選択制ではなく、いじめや交通の便、部活動など事情があれば、指定校以外の学校にも通えるという柔軟なやり方に収れんさせた方が現実的。保護者は学校の選び手ではなくつくり手になるべきだ。

(東京新聞)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008110390070857.html