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2008年11月02日(日) 15時18分

追加経済対策の舞台裏 政府・与党もパニック産経新聞

 「悪夢の10月(ブラック・オクトーバー)」。米国発の金融危機が日本を直撃し、10月28日に日経平均株価が一時7000円を割り込んだ。政府・与党は市場と同様にパニックに陥っていた。何とか30日に財政支出約5兆円、事業規模約27兆円の追加経済対策を打ち出し、市場のパニックはひとまず沈静化したかにみえる。だが、日本を含む世界の実体経済の悪化が本格化するのはこれからだ。株価や為替相場の行方はなお波乱含みだ。

 10月26日の日曜日。中川昭一財務・金融担当相は財務省と金融庁の幹部を引き連れ、都内のホテルで会食していた麻生太郎首相を訪ねた。

 前週末24日の東京株式市場では、日経平均株価が前日比811円90銭安の7649円08銭に暴落。2003年4月28日に付けたバブル崩壊後の最安値である7607円88銭まで、わずか40円に迫っていた。

 外国為替市場でも円相場が、13年3カ月ぶりの一時1ドル=90円台まで急騰。円高が輸出に依存する日本経済にダメージを与え、企業業績が悪化するとの懸念で株がたたき売られる負の連鎖が加速した。

 週明けの取引が始まるまで、残された時間はわずかしかない。

 金融庁は休日返上で作業に当たり、26日に市場安定化策を発表する手はずをとっていた。

 しかし、麻生首相との会合を終えた中川財務・金融担当相は「近く首相から指示がある」と語り、具体的な対策には触れずにホテルを後にした。

 さらに27日の市場の取引が始まる午前9時に開いた会見でも、急激な円高に対し、「無秩序な動きが経済や金融の安定に悪影響を与えるとの認識を持っている」と言及したが、具体的な対策については、麻生首相から昼前に指示を受けることを明らかにしただけだった。

 その足で官邸に向かい、首相の指示を受け、緊急安定化策を発表したのは、株式市場のお昼休み時間だった。その内容は、▽政府の銀行等保有株式取得機構による銀行保有株式の買い取り再開▽「空売り規制」の強化▽従業員持ち株会による株式の取得▽金融機関の健全性の目安となる自己資本比率の弾力的な運用−などだ。

 だが、株価は下げ止まらなかった。27日の日経平均株価の終値は前日比486円18銭安の7162円90銭安。バブル崩壊後の最安値を更新し、26年ぶりの安値に沈んだ。

 翌28日の午前中にはついに一時7000円台の大台も割り込んだ後、ようやく反転上昇に転じる。歴史的な割安感に加え、政府が打ち出した対策をようやく市場が評価し始めたためだが、政府の対応が後手に回り続けたことが市場の混乱に拍車をかけた。

 金融当局にとって“常識”ともいえる週明け27日の取引が始まる前に対策を公表できなかったのはなぜなかのか。

 金融庁関係者は「中川財務・金融担当相が段取りにこだわったからではないか」と指摘する。麻生首相に花を持たせるため、あえて公表の時間を遅らせたというのだ。

 ただ、取引開始前に対策を表明していれば、市場参加者が違った反応を示していた可能性もあり、迫り来る金融恐慌に対する政府の認識の甘さが浮き彫りにする形になった。

 30日に政府が発表した追加経済対策の取りまとめも迷走を極めた。

 最大の焦点は、8月末の最初の対策に盛り込まれた2兆円の定額減税の具体化だった。

 減税は、公明党が強く主張し、財政悪化を懸念する自民党を押し切り、盛り込まれたものだった。

 公明党はさらに具体化にあたり、減税だけでは、所得税を払っていない低所得者には恩恵が及ばないことから、2兆円とは別枠で、低所得者に福祉給付金を出すよう要求した。

 「ばらまき批判」を恐れた自民党は、さすがに別枠に難色を示す。ところが、与党が出した結論は、2兆円全額を現金やクーポン券で全世帯に配る「定額給付金」だった。

 公明党が主張する低所得者への配慮に加え、「減税しても、貯蓄に回ってしまい消費を押し上げる効果は限定的」との批判にも対応した苦肉の策だ。

 もっとも、必ず消費に使われるクーポン券を配ったところで、「生活に必要な米やみそを買って、浮いたお金を貯蓄に回すので、効果は減税と変わらない」(民間エコノミスト)。

 民間エコノミストの間では、2兆円をばらまいても、実質経済成長率を0・1〜0・2%程度押し上げる効果しかないと試算されている。

 1998年に、“借金王”と揶揄(やゆ)された小渕恵三首相が実施した7000億円の「地域振興券」の例をみても、その効果が限定的にとどまることが証明済みだ。内閣府経済社会総合研究所の調査では、「2万円を支給された世帯で消費に使われたのは2〜3割の4000〜6000円にとどまり、残りは貯蓄された」ことが判明している。

 地域振興券も、選挙協力で欠かせない公明党の主張によって実現しており、民主党から「7000億円の国会対策費」などとの批判を浴びた。今回もそのプロセスはまったく同じだ。

 話題となっている「高速道路1000円乗り放題」も、どれだけ利用が増え、どれだけの財源が必要なのかなどの裏付けもないまま盛り込まれた。

 市場は追加対策をひとまず好感しているが、経済効果を置き去りにした対策の化けの皮がはがれ落ち、パニックが再燃する懸念はぬぐえない。(石垣良幸)

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