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2008年11月02日(日) 00時00分

睡眠削り28時間800キロ読売新聞


一般道を走る長距離トラックの運転手。「運転席が今の人生で最も長くいる場所」と言う(10月30日夜、兵庫県たつの市で)=枡田直也撮影
トラック運転手「手当のため」

 金融危機の波紋は、物流業界にも広がっていた。

 兵庫県たつの市。10月30日の夜、国道2号沿いにある24時間営業の食堂の大型駐車場は、大型トラックで埋まっていた。北九州、徳島、八王子……。全国各地から来たトラックが並ぶ中、関西ナンバーのトラックが数少ない空きスペースを見つけて滑り込んだ。

 「これでようやく眠ることができる」。運転席から下りてきた運転手の男性(44)は少しだけホッとした表情を見せた。

 男性は29日の夕方、兵庫県内で銅線11トンを積み、松山市の工場に配達した後、新たに電線10トンを積み込んで兵庫県内に届けるところだった。出発してから28時間余り。わずかな仮眠をはさんで、走った距離は800キロになる。

 男性はまず食堂で800円の野菜いため定食を注文した。野菜が食べられて1000円以内が条件。それをかき込むと、トラックの運転席の後ろに敷いた布団に潜り込む。夜通しハンドルを握っていた男性にとって久しぶりの休息だった。

 男性が勤める関西地方の運送会社は9月以降、輸出産業が減産にかじを切った影響からか、仕事が極端に少なくなった。長距離輸送で出発時に帰りの積み荷が決まっている仕事は2割ほど。13トンの荷台に荷物が4トンしかないこともある。

 男性の10月分の給与は手取り26万円。固定給は13万円で、荷主からの運賃の値下げ要求で歩合給が減っている分、「努力手当」を必死に稼いで、ようやくこの額になる。

ひたすら一般道、高速代浮かす

28時間走り続けた後、久しぶりの睡眠を取る。運転席の後ろの寝床は、半畳ほどしかない

 努力手当は一般道を通って高速料金を浮かせた時、その7割を運転手がもらえる同社の制度。一般道を走れば時間がかかるため、契約を守るには睡眠や休憩を減らすしかない。男性は運転中、眠ってはいけないと思いながらも、気が付くと目を閉じていて、はっとすることが何度もある。

 政府が新たに発表した追加景気対策は、トラックも含め全車種の平日の高速料金が少なくとも3割引きになるが、荷主からさらに運賃の値下げを求められる恐れもある。「生活が楽になる気がしない」。男性はそう言って、ため息をついた。

 さいたま市内の近距離トラックの男性運転手(39)は、さらに大きな不安を抱えていた。

 2か月前、勤務先が倒産し、10月半ば、段ボールの原紙を千葉や神奈川に運ぶ今の職場に再就職した。ところが仕事がほとんどない。家電製品などの買い控えで段ボール箱の需要が落ちているためとみられ、待合室で5時間待つ日もある。

 同僚が「こんなに暇なのは初めて」と漏らすほどだ。「歩合も入れて月給25万円」という会社側の説明も本当かどうかわからない。

 妻もパートを始めたが、10年前に4000万円で購入した一戸建ての住宅ローンが月10万円。小学生の娘2人の教育費もある。

 「貯金を取り崩しながら何とか生きている。今の会社もダメだったら、私たち家族はどうなるのか」。その声はかすかに震えていた。

http://www.yomiuri.co.jp/national/kishimu/kishimu081102.htm