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2008年11月02日(日) 20時30分

梅田ひき逃げ 特異な逃走行動と少ない証拠産経新聞

 犯人逮捕=検挙率100%。大阪府内で今年発生した死亡ひき逃げ事件は10件(10月31日現在)で、うち9件はすでに解決。残る未解決1件が、10月21日に大阪市北区梅田の交差点で会社員がはねられ、約3キロも引きずられて死亡した事件だ。事故そのものは軽微だった可能性も高く、なぜ犯人は被害者を引きずってまで逃げなければならなかったのか。車種の特定につながる物証が乏しく、めぼしい目撃情報もない中、これまでの大阪府警の捜査を振り返る。

 鈴木源太郎さん(30)=堺市東区=がはねられた北区梅田の国道176号阪神前交差点は、JR大阪駅や阪急、阪神の梅田駅、百貨店が密集し、片側だけで最大6車線もある巨大交差点。横断歩道はなく、あらゆる方面に渡ることができる歩道橋が架かっている。

【関連フォト】防犯カメラに写った黒いワゴン車

 事件は21日午前4時15分ごろに発生した。同僚らと前日の夕方から飲んでいた鈴木さんは、交差点を横断中に中央付近ではねられた。

 「停止線に止まっていた車が発進してすぐに人をはねた」

 交差点脇の阪急百貨店前で事故を目撃した男性(51)はこう話す。

 証言を裏付けるように、停止線から2〜3メートルのところに鈴木さんの靴が落ち、衣服の繊維片が路面に付着していた。

 しかし、この衝突の衝撃は小さかったとされている。司法解剖の結果、鈴木さんの遺体からは車にはねられた際の傷は確認されなかったからだ。つまり低速でぶつかったとみられるということだ。

 交差点の約100メートル手前の防犯カメラでも、犯行車両の可能性が高い黒いワゴン車が低速で走るようすが写っていた。

 その場ですぐに救護措置をとっていれば大事故にはならなかった、との見方をする捜査関係者は多い。

 「飲酒運転や無免許だったケースも考えられる。いずれにせよ、逃げざるをえない状況が犯人側にはあったのだろう」

 さらに事故現場では微物の採集も難航しており、このことからも車の損傷が小さかったことが分かる。

 また「最近の塗装技術ならば、少々の事故では塗膜片がはがれにくい」との指摘もあり、物証から車種の特定に結びつける作業は予想以上に困難な状況にあるという。

 このひき逃げ事件の特殊性は衝突後に犯人がとった行動だ。犯行車両は鈴木さんをはねて車体底部に巻き込んだ。ズボンのすそにはタイヤ痕が残っていた。

 また遺体は後頭部や肩など上半身部分に損傷が集中していた。このため鈴木さんは、車と衝突してあお向けに倒れたまま車体の下に潜り込む形になり、脚付近のどこかが底部に引っかかり、上半身背部を下にして引きずられていた可能性が高いという。

 車は巻き込んだ鈴木さんを引きずったまま走行。遺体が振り落とされた福島区吉野まで約3キロに渡り、左右の小幅なぶれを繰り返し、計4回も大きく蛇行しながら逃走した。その様子は路面に無惨に残されていた血痕からもうかがえる。

 犯人は引きずっていることに気づき、振り落とそうと躍起になったのではないかとも考えられている。

 さらに驚いたことに、犯行車両は鈴木さんを引きずった状態で、福島警察署の前を通過している。このことから「土地勘のない人物ではないか」との見方も浮上している。

 車は鈴木さんを振り落としたあと、南西方向に市道(北港通)を直進。国道43号と交差する梅香(ばいか)交差点までの間で、計3カ所の防犯カメラに黒いワゴン車が西向きに走行するようすが写っていた。

 しかし、同交差点を越えた北港通沿いの複数の防犯カメラには黒いワゴン車は写っておらず、国道43号を使って逃走した可能性もある。

 国道を右折すれば大阪市西淀川区や兵庫県尼崎市方面、左折すれば大阪市港区方面に抜けることができる。さらに阪神高速湾岸線に乗ることも可能だ。

 「ひき逃げ犯人は絶対に逃さない」

 発生初日に府警幹部が語った言葉だ。府警は早期の事件解決で、死亡ひき逃げ事件の検挙率100%を成し遂げる構えだ。

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