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2008年11月02日(日) 19時51分

経済情勢甘く見た日銀 大局見ない狡いやり方産経新聞

 白川方明(まさあき)総裁にはあぜんとさせられた。10月31日の政策金利の0.2%引き下げ決定後の記者会見で、総裁は「経済情勢、金融情勢自体がこの1カ月弱の間に大きく変化した」と言いのけた。1カ月弱前とは前回の日銀政策決定会合が開かれた10月6、7日を指す。9月15日の米証券大手リーマン・ブラザースの経営破綻(はたん)をきっかけに米国発の危機は全世界に飛び火し、ただちに日本にも及んでいた。なのに日銀は情勢を甘く見ていた。それを示すのが「幻の緊急声明」事件である。

 10月7日午後6時半、麻生太郎首相は、11日にワシントンで開かれる先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)出席のため出発する中川昭一財務・金融担当相と並んで白川総裁を首相官邸に呼んだ。首相の意図は、「日本のバブル崩壊時の教訓を米側に伝えよ」という指示だとされるが、首相の手元にはある素案があった。

 「金融危機に対する日本の決意のほどを緊急声明にして発表しようというもので、日銀によるふんだんな資金供給がその柱の一つだった」(政府筋)。ところが、日銀は同案に返事をせず、事実上無視。結局声明案は流れた。雑誌ファクタ11月号では「(危機への対応は)やくざな性分でなきゃできないな」との麻生首相の発言を紹介しているが、このときも出たに違いない。

 8日にはさらに、米欧など世界10カ国の中央銀行が協調利下げにも踏み切ったが、日銀は米連邦準備制度理事会(FRB)などからの要請を断っていた。

 結果は、その後の急激な円高、株安。そしてすでに下降局面に入っている景気の先行き不安へのだめ押し。10月末の銀行間の短期資金融通市場(コール市場)の残高は、6月末比で25%も減った。金融機関は企業向けに貸せない。

 今回の0.2%利下げは何を意図するのか。もとより、金利水準は「超低金利」である。わずかに下がっても、実体経済への刺激効果に乏しい。信用収縮とデフレ懸念でいつ一部金融機関が破綻してもおかしくない今、日銀に求められるのは、緊急措置としての「量的緩和」のはずである。ところが、日銀の意図はあいまいだ。

 日銀は日銀券を刷って市場に流し込む。この上限を大幅に引き上げるのが量的緩和なのだが、そうするとコール市場では資金があまり、短期金利は下落を続け、究極的には金利ゼロになる。日銀はそうなると短期金融市場を操作できなくなるので嫌う。

 従来の0.25%の利下げ幅を拒否したのは、もう一度利下げすればゼロになるからだ。ご丁寧なことに、銀行の日銀への当座預金に金利を付け、短期市場金利がそれ以下にならないようにした。日銀は量的緩和に歯止めをかけゼロ金利を避ける、というのが今回の利下げの真相なのである。とすれば、日銀は自身の利害を優先して危機対策という大局を見ない、狡(こす)いやり方ではないか。(編集委員 田村秀男)

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