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2008年11月02日(日) 07時12分

新銀行東京 不正融資の背景 甘い審査 群がる悪意東京新聞

 新銀行東京をめぐる融資詐欺事件は、同行が融資拡大路線を暴走する中で、甘い審査に群がる悪意の一端を浮き彫りにした。東京都が設立時に出資した一千億円のうち、損失の穴埋めで約八百五十億円が既に消えた。税金が食い物にされる結果を招いた不正融資が、なぜ横行したのか。関係者の証言から、事件の背景を探った。 (社会部・石川修巳、末松茂永、池田悌一)

 「融資実績を伸ばせば、焦げ付いても責任を問われない。言ってみれば無責任集団。モラルもなかった。事件が起こる素地は、十分にあった」

 他の金融機関から新銀行に入った四十代の元行員は吐き捨てるように言った。税理士やコンサルタントを名乗るブローカーの存在に、注意が呼び掛けられていた。

 都が新銀行の設立構想で打ち出した「無担保・無保証」は、借り逃げされる危険をはらむ。さらに、決算書データを入力して機械的に融資の可否を判定する「スコアリングモデル」の長所のみに着目し、「三営業日以内のスピーディーな回答」を売り物にしていた。

 「“目利き”や“職人芸”という言葉は使うな」と、当時の経営陣は指導した。最前線には融資経験がない人も配置された。返済が滞り、会社の所在確認に訪れたら、もともとなかった−。そんなケースもあったという。

 「融資の上限額が五千万円というのも高過ぎた。悪意のある人にとっても“元が取れる”金額だ。下げるよう提案しても、聞き入れられなかった」。中小・零細企業の支援をうたっていたが、「融資先の息遣いが感じられない銀行だった」。

 「工場長」。行員たちは当時の経営陣を、陰でこう呼んでいた。融資拡大に一辺倒。慎重審査を求める建言に「融資が伸びない」と突っぱねた。懲罰的に更迭された行員もいた。

 元幹部は言う。「歯止めになるはずの内規まで、どんどん変えられた。負け(融資の焦げ付き)が込んでも突っ込んだ」。半年間、返済不能にならなければ、融資実績に応じて年間最大二百万円の成果手当も支給した。

 石原慎太郎都知事が既存金融機関へのアンチテーゼとして、公約に掲げた「石原銀行」。存在意義を示す「物差し」として融資残高が注目され、数字の積み上げが優先された、と元幹部はみている。

 知事側近も、こうつぶやいたことがある。「都議も新銀行のセールスマンとなって融資先を見つけてほしい」

   ◇

 新銀行は今年三月、新経営陣の下で実施した内部調査結果を公表。融資から三カ月以内に経営破たん▽融資額が過大−といった「問題案件」約八十社を抽出した。うち約三十五社は、融資申込時に出された決算書の粉飾が疑われるという。

◆『詐欺まがい』は複数か

 元行員やブローカーら八人を逮捕した警視庁捜査二課は、新銀行東京の告訴を受け強制捜査に踏み切った。逮捕容疑以外にも複数の「詐欺まがい融資」の情報が寄せられているとされ、問題の根深さがうかがわれる。

 同課は、元池袋出張所契約社員の青木千代美容疑者(56)らが営業実体のない設備工事会社リフレックス(東京都中野区)に五千万円を融資したとして、詐欺容疑で逮捕した。青木容疑者は同社の年間売上高を三倍に水増しした決算書などを出張所に提出。書類をチェックした出張所長ら上司三人は不正に気づかず、融資は申し込みの四日後に実行された。

 青木容疑者は、少なくとも四社に対する不正融資にかかわった疑いが浮上している。同課は青木容疑者が手数料などを目当てに、積極的に不正融資を実行したとみて全容解明を目指す。

◆新銀行東京 これまでの経緯

2005年4月 開業。スコアリングモデルを利用した融資を推進

 06年12月 同年9月中間決算の累積損失が456億円に膨らみ、融資審査方法の抜本見直しに着手

 07年6月 同年3月期の累積損失が849億円に拡大。経営陣を刷新し、縮小均衡路線に転換

 08年2月 再建計画を発表。11の金融機関との提携・統合交渉が不調に終わり、東京都に400億円の追加出資を要請

   3月 都議会で追加出資を決定

   4月 金融庁検査(〜10月)

   12月 同年9月中間決算を発表予定

(東京新聞)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008110290071209.html