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2008年11月01日(土) 00時00分

町工場 仕事ない読売新聞


大幅に売り上げが下がった帳簿に目を通す英寿製作所の三上社長。最近は1日2時間しか機械を動かさない日もある(東京・大田区で)=源幸正倫撮影
金融危機の荒波「モノ作り」直撃

 米国発の金融危機に、人々の暮らしが翻弄(ほんろう)されている。麻生首相が「100年に1度の暴風雨」と称した株価と為替の乱高下。その波紋は日本のどこに、どのように広がっているのか。現状を報告する。

食費削り 娘の結婚資金も消えた

 たたみ1畳分もあるアルミ板から、手のひらほどの扇形の部品が次々に焼き切られていく。4700社に上る町工場が集まる東京・大田区。その一つ、金属加工会社「英寿製作所」の社長、三上和寿さん(46)は、最新のレーザー加工機で切り出した部品を見ながら、「今日の仕事は、これ1件しかなかった」と悲しそうに語った。

 三上さんは妻と2人の娘、父親で同社会長の喜久治さん(72)と母親の6人家族。妻は派遣の仕事に出ているため、工場は三上さんと喜久治さんで切り盛りしている。

 月75万円のレーザー加工機のリース代、自宅兼工場のローン……。最低でも売り上げが月250万円ないと、工場も家族の生活も維持できない。それが今年の夏から急に減り始め、米大手証券リーマン・ブラザーズが破綻(はたん)した9月は、前年同期比43万円減の196万円にまで落ち込んだ。

 預金を取り崩して運転資金に回し、20歳と23歳の娘の嫁入り資金も消えた。家族の食費を削り、喜久治さんの会長としての報酬月10万円もローンの返済に充てている。

 麻生首相は30日、中小企業の資金繰り支援などの経済対策を公表した。しかし、日本の「モノ作り」の末端で機械の部品を製造する三上さんにとって、これで売り上げが戻るのか先行きは見えない。「個人の努力の限界を超えている」。三上さんはそう言って頭を抱えた。

 愛知県岡崎市。金属加工会社「加古製作所」社長の加古立夫(たつお)さん(60)も「来週の注文は1件しかない」と話し始めた。

 同社は、トヨタ自動車など自動車メーカーの孫請けで、加古さんと長男の立浩(たつひろ)さん(33)、男性従業員の3人が車の製造ラインの部品を作っている。原材料代が高騰しても、コスト削減と品質の維持を両立させ、「世界に誇る日本車は俺たちが支えている」と胸を張って働いてきた。

 そこに9月以降、金融危機による北米の自動車市場の冷え込みが直撃した。10月の売り上げは前年同期比25%減の220万円。採算ラインぎりぎりで、40万円かかる工場の屋根の修繕をあきらめた。11月も第2週からの注文がない。

 「この先も注文がこないかと思うと夜も眠れない」。加古さんは「とにかく仕事が欲しい」と訴えた。

 大阪市平野区の金属加工会社「村岡製作所」の社長、村岡盛満さん(60)は10月半ば、夜8時ごろに外回りから事務所に帰ると、見知らぬ男性に呼び止められた。「得意先からの注文が途絶えてしまって……。仕事をわけてもらえませんか」。大阪府内の同業者だった。

 村岡さんの工場も9月は売上高が半減し、10月も4割減った。同業者に注文を回す余裕はない。「9月以降、同じような依頼が7、8件続いている。こんなことはバブル崩壊の時も経験しなかった」。その言葉に悲壮感が漂っていた。

http://www.yomiuri.co.jp/national/kishimu/kishimu081101_01.htm