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2008年10月31日(金) 22時19分

池袋「人世横丁」57年の歴史に幕産経新聞

 東京・池袋の名物居酒屋街「人世横丁」が31日夜、最後の明かりを消した。敗戦後の闇市から出発し、サラリーマンの哀感を赤ちょうちんのぬくもりで包んで57年。店舗の老朽化や、店主たちの高齢化から有終の美を選んだ。「昭和」がまた一つ遠くなった。(徳光一輝)

 人世横丁はJR池袋駅の東口、ビルの谷間にぽつんとある。昭和26、27年に作られた木造2階建て。赤ちょうちんの店38軒が肩を寄せ合ってきた。「人生」ではなく「人世」。開業時に中心となった天ぷら店主が「人の世にはいつも横丁がある」と名づけたという。

 往時は、現在のサンシャインビルの場所にあった「巣鴨プリズン」から外出許可を得た戦犯たちが息抜きに訪れ、釈放後に横丁の女たちと3組の夫婦が生まれた。日本のゲイバーの草分けだった「グレー」には江戸川乱歩や美輪明宏さんが足しげく通ったという。

 近年はレトロな雰囲気が人気を呼び、ドラマのロケにも使われたが、昨年6月、都内の業者から再開発を打診された。横丁の店主で作る組合は建物の老朽化や店主の高齢化、後継者難から売却を決意。今夏から閉鎖が始まり、1軒だけ残っていた「幸(こう)ちゃん寿司」がこの日、最後の客を迎えた。

 午後5時、いつものように看板に明かりがともると、待ちかねたなじみ客らが次々にのれんをくぐり、狭いカウンター席はたちまち満席に。店の外で十数人が列を作った。店内では「さみしいね」「ご苦労さま」との声がもれた。2代目店主の井田幸男さん(55)は「横丁で生まれ育った者として『寂しい』のひと言ですが、これも時代の流れで仕方がない」。

 人世横丁の常連で社会学者の橋本健二・武蔵大教授(49)は「横丁を支えた団塊世代が引退した上、サラリーマンの飲食費が減ってクレジットカードの使えない横丁は苦しくなった。そこへ再開発の波が押し寄せた」と指摘する。

 横丁の名を「人世」とした天ぷら店主の次女、中村規久代さん(70)は9年前から横丁の商店会長を務めた。数年前に案内板を新調。横丁の若い店主に余白に何か書くよう促したら、「あなたには横丁がありますか」と書き込んだ。

 中村さんは言う。

 「父と若い店主の間には50年以上の時があるのに、同じことを言う。やっぱり男には横丁が必要なんだなと思いました」

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