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2008年10月31日(金) 00時00分

1台の携帯電話を3つの詐欺に悪用読売新聞

 振り込め詐欺、携帯電話大量盗難、複数台の不正契約など、携帯電話を悪用する詐欺が頻発している。別の詐欺のように見えるが、実はすべてつながっている。犯人グループは携帯電話を「1台で3回オイシイ」詐欺として悪用しているのだ。(テクニカルライター・三上洋)

頻発する携帯電話関連の詐欺

 前回の記事「携帯窃盗の背景…端末高騰と「白ロムショップ」」で取り上げたように、携帯電話の端末を巡る詐欺・トラブルが頻発している。また厳重な警戒にも関わらず、振り込め詐欺が横行しており、不正契約された携帯電話が振り込め詐欺に使われている。最近の携帯電話関連の事件をピックアップしてみよう。

●他人に譲る目的で携帯電話を購入
 借金に困った容疑者が、借入先の金融業者から「携帯電話を契約して郵送すれば利子を免除する」と指示され携帯電話4台を購入。携帯電話を詐取したとして容疑者が逮捕・起訴された(福島県 10月14日)

●不正購入した携帯電話を転売
 容疑者は、高校生らに携帯電話を契約させて買い取って転売。偽造した健康保険証などを使って高校生らに携帯電話を購入させ、これまでに1050台を別の業者に転売していた。転売された携帯電話は、別の振り込め詐欺グループが悪用し、約280万円の被害が出ている(東京都 10月20日)

●「誰にでも簡単にできる仕事」で携帯電話詐取
 容疑者はインターネットで「日給3〜5万円、誰にでも簡単にできる仕事」という書き込みを見て詐欺グループと接触。偽造免許証などを受け取って携帯電話を不正に契約し、詐欺グループへ転売していた(長野県 10月17日)

 これらの事件は、いずれも携帯電話を不正に契約し、転売した事件だ。共通するのは詐欺グループが組織的に行っていることで、携帯電話を不正契約する通称「買い子」、携帯電話を買い取って転売する「転売役」、そして振り込め詐欺に使うグループと分業体制を取っているようだ。

 また前回の記事「携帯窃盗の背景…端末高騰と「白ロムショップ」」のように、携帯電話ショップから大量に端末を盗む例もある。盗難、不正契約、転売、振り込め詐欺と携帯電話を巡る事件が目立って増えてきた。

「不正入手」「悪用」「転売」…3つの詐欺で使用

 これらの携帯電話を巡る事件は独立したものではなく、つながりがある。犯人グループは携帯電話を「不正入手」「悪用」「転売」と3つの詐欺に使っているようだ。

1:携帯電話を不正入手。借金に困っている人をダマす例も
 まず犯人グループは、携帯電話を大量に入手しようとする。方法は2つあるようで、1つは高校生などのアルバイトを使い、偽造免許証などで携帯電話を大量に契約させるもの。この場合は偽造免許証などで銀行に架空名義を作ってから申し込む例が多いようだ。2つ目のパターンは、「誰にでも簡単にできる仕事です」「借金の利子を免除します」などとして募集するパターン。応募してきた人に携帯電話を大量契約させて買い取る。この場合は応募してきた人のクレジットカードや口座などで契約する(以前の記事「mixiを悪用、携帯の大量契約詐欺」がこのパターン)。結果として応募してきた人がダマされることになる。

2:振り込め詐欺に悪用
 入手した携帯電話は、別のグループが買い取る。この携帯電話を使って、振り込め詐欺などに悪用する。架空名義、他人名義の携帯電話なので、足がつきにくいと考えているのだろう。インターネットや携帯サイトなどで「架空名義の携帯電話売ります」などとして売ってしまうパターンもある。

3:白ロムとして転売
 不正利用がわかれば、携帯電話の契約は止められる。電話としては使えなくなってしまうのだが、それでもまだ犯人グループには換金する手段がある。端末を白ロムショップに転売する方法だ。前回の記事「携帯窃盗の背景…端末高騰と「白ロムショップ」」でも取り上げたように、電話番号の入っていない携帯電話を白ロムと呼び、専門のネットショップが多数あって売買されている。携帯電話の販売制度の変更などにより、端末価格が高くなっていることが影響している。

 このように犯人グループは、「大量契約・不正入手」「振り込め詐欺」「白ロム転売」の3つの方法で携帯電話を悪用している。犯人にとっては「1台で3度オイシイ」わけで、これが携帯電話詐取事件が頻発する原因となっている。

 根本的な解決は、携帯電話の製造番号を電話会社がチェックすることだが、製造番号による電話ストップはできないようだ(一部の携帯電話会社を除く)。現在の携帯電話の多くは、契約データがSIMカードと呼ばれるメモリーカードに入っており、これを差し替えれば別の端末でも通話できる。携帯電話会社ではSIMカードのデータはチェックするものの、端末の製造番号はチェックしていないため、不正に入手したり盗まれた端末からの通話をストップできないことが多い。この部分を解決しない限り、今後も携帯電話詐取事件が起きるだろう。携帯電話会社での対策を望みたいところだ。

 私たちが注意したいのは、「簡単にできる仕事です」「借金を減らします」などの広告にダマされないこと。甘い言葉で誘っておいて、実際には携帯電話を大量契約させるパターンが多い。これを実行してしまうと、詐欺の被害者になるだけでなく、不正購入・振り込め詐欺の加害者にもなってしまう。携帯電話を契約するだけ、と称する仕事は、詐欺に加担することになるので絶対にやめよう。

http://www.yomiuri.co.jp/net/security/goshinjyutsu/20081031nt11.htm